約 3,642,350 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4111.html
※最初で最後のゆっくり虐待に挑戦中です。 ※どくそ長いです。(十回超の予定) ※うんうん、まむまむ描写あり。 ※標的は全員ゲスです。 ※最初の数回は読者様のストレスをマッハにすることに腐心しています。虐待は次回から。 ※虐待レベルはベリーハードを目指します。 ※今回は人間が悲惨な目に会う描写があり、気分を深く害される恐れがあります。 一応、今回だけ読み飛ばしてもいいように書いていく予定です。 ※以上をご了承頂ける方のみどうぞ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『永遠のゆっくり』4 ずっと俺には疑問だった。 突如として現実世界に現れた不可解な存在、ゆっくり。 こいつらは一体なんなんだ。 中身に詰まっているのは餡子のみ。 他のどの生態系にも類を見ない不可思議な機構で動いている。 小麦粉と甘味でほとんどが構成されたその肉体はひどくもろく、衝撃や苦痛でたやすく餡子を漏らして死ぬ。 なにより不可解なのはその知能だ。 言語を話す、という時点で他の動物とは比較にならないほど知能は高い。 ところがその行動は単細胞生物のそれで、 思考力や学習能力にひどく乏しく、目先のゆっくりしか目に入らず、 野生動物なら最低限あってしかるべきはずの危機管理能力が決定的に欠けている。 おそろしく弱いくせに自信に満ち溢れ、無謀なことばかり繰り返す。 こんな生物は、生態系としては下の下で、 とっくの昔に絶滅していておかしくないはずなのだが、 並はずれた性欲に支えられた繁殖力、ただそれだけを武器に、 ゴキブリ以上のしぶとさで地球にしがみついている。 俺にはわからなかった。 大学で少々生物学をかじった身として、 ゆっくりの生物としての整合性が理解できなかったのだ。 性欲以外のほぼすべての特徴が、生物としてマイナス要素しかない。 なぜ、そんな生き物が生まれてきたのだろうか。 生物に意味などあるはずはない。 しかしどの生物も、進化の過程を経て、 思わず感心してしまうほどの適合力を見せて、自らの生活圏とぴったりと結合している。 しかし、ゆっくりは見たところ、どの生活圏にも結合していない。 森に繁殖すれば、たちまちそこの食物を食べつくしてしまう。 町に住めば、人間どもに追われ、迫害されている。 こいつらはなんのために生きているのだろう。 どんなゆっくりプレイスも、例外なく破綻する。 生まれては死に、繁殖しては滅び、流れるようにあちらこちらをさまよう。 こいつらが生物としてぴったりとはまり、安定していられるのはどういう環境なのだろうか。 「何か月かね?」 「は、はい……三ヶ月ちょっとらしいです」 長浜氏はソファに身を沈めたまま、険しい表情をしていた。 「ゆぅ~ん、おじいちゃんどうしたの?なんだかこわいよ?」 「なんでもないよ。あっちへ行っていなさい」 「ゆっくりりかいしたよ!」 絨毯の上を跳ねながら、開け放したドアを出ていくゆっくりれいむ。 長浜氏の邸宅。 広い居間でテーブルをはさんで向かい合い、俺は恐縮しきっていた。 俺の隣には由美。 向かい合ったソファの正面には由美の祖父長浜氏が座り、 その隣に由美の両親が座っていた。 俺の返答を聞いたあと、長浜氏は黙ってこちらを見つめていた。 俺はうつむいて冷や汗をたらしながら、つけ慣れないネクタイの位置を直した。 由美の妊娠を知らされたときには、すでに受胎してから二か月半ばを経過していた。 毎日俺の部屋に通っていたはずの由美が、ある時を境に数日間来なくなった。 心配になった俺は電話で連絡した。 すると、由美は震える声で、産婦人科に行ってきたことを告げてきた。 妊娠を知らされ、俺の喉がひりついた。 ゆっくりの世話に追われてこのところすっかりご無沙汰だったが、 ゆっくりをここに迎える直前、すでにご懐妊なさっていたらしい。 どうする。 俺はしばらく悩み、時間をかけて由美と相談し、結論を出した。 「こういう事柄に関しては、君には忍耐力がなかったようだね」 やっとのことで、長浜氏が仏頂面で言った。 俺は恐縮して頭を下げるしかない。 「大切な孫娘なんだよ。たったひとりの……つい先日、成人式を挙げたばかりだ」 「は。はい」 「君はまだ働いていない学生の身分だろう」 「……はい」 「とんだことをしてくれたよね」 「は」 「嫁入り前の、人の娘に……娘というのは君、宝だよ」 「……」 「おじいちゃん」 「黙っていなさい!」 由美が口を挟もうとしたが、長浜氏がぴしゃりと遮った。 これほど険を含んだ長浜氏は初めてだった。 あの礼儀正しい老紳士が、静かに怒っている。 耐えがたい、重苦しい沈黙。 「どうするのかね」 やがて、ぽつりと長浜氏が聞いてきた。 震える手で膝を握りながら、俺は声を絞り出した。 「……由美さんを、僕にください」 「……今、なんと言ったのかね?」 「僕に由美さんをください!必ず幸せに、幸せにしてみせます!!」 俺は叫びながら顔をあげた。 長浜氏は、顔中をくしゃくしゃにして笑っていた。 「いやいやいやいや、さあさあどうぞどうぞ」 「いや、あの、僕は車なんで」 「いやいやいいじゃないか。帰りは送らせるよ、まあどうぞ」 俺の手に持ったグラスに、高そうな酒がどぼどぼと注がれる。 「いやあうん、懐かしいな。私もそうだったんだよ。 圭一くん、私も君といっしょでね、深窓の令嬢を結婚前に孕ませてしまった。 相手方のオヤジさんにはぶん殴られたよ」 「そうでしたか」 長浜氏は浮かれまくっている。 由美の両親はそれほど浮かれる気にはなれないようだったが、ともかく笑顔を作っていた。 「もしも君が逃げ出すようだったら、ただではおかなかったよ、うん。 しかし、これで全て丸く収まりそうだ。君なら大丈夫だろう、うん、ね。 困ったことがあるならいつでも言ってきたまえよ、我々は家族になるんだからね」 「ありがとうございます!」 「本当に、頼んだからね。由美、いい人を見つけたね」 「うん!」 涙を浮かべ、由美が頷いた。 「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!」 「ゆっくり!!ゆっくり!!」 場の雰囲気を察知し、長浜氏の飼っているゆっくり共が嬉しげに絨毯の上で飛び跳ねている。 この時ばかりはゆっくりが可愛く見えた。 しかし多いな。大小さまざま、何十匹いるんだ。 「由美から聞いているよ」 「え?」 「例の、ゆっくりの事だよ。君の家で飼っている」 「あ、はい……」 声のトーンがわずかに沈んだ。思い出すことさえ不快だ。 「ものすごく大変らしいね。床のうんうんを舐めたんだって?」 「あ、いや、まあ……」 そんなことまで耳に届いていたとは。 あの姿だけは見られたくなかったなあ。 「君は今、ゆっくりが好きかね?」 「…………」 「嫌いだろうね。無理もないよ」 「はい……」 長浜氏の声は穏やかだった。 彼は由美に向きなおって言った。 「なあ、由美。もういいだろ。解放してあげなさい」 「……うん。圭一、今まで本当にごめんね」 「圭一君。そもそもは私までがぐるになって君に頼んだことだったが、 これまで本当に、よく由美に付き合ってくれたね。心から感謝しているんだよ。ありがとう」 ストレートに「試していた」と言ってくるわけじゃないが、 やはりあの計画で、俺が試されていたのは確かのようだ。 夫として由美と向き合っていく忍耐力を、俺は証明したのだ。 「ともかく、君たちは近いうちに夫婦になるのだろ?」 「はい、そのつもりです。準備は大変だと思いますけど……」 「もちろん手伝うよ。それでだ、そういう準備もあるし、 もうゆっくりに一日中かかずらっているわけにはいくまい」 「は……そうですね」 「あのゆっくりはこちらで引き取ろう。 もちろん最低限の躾は必要だろうが、責任をもってできるかぎりゆっくりさせるよ」 「あの、私が面倒見るから!」 「どうするつもりだい、由美。これまで通り自由奔放にゆっくりさせるのかい?」 「できれば、そうしたいんだけど」 長浜氏はしかしかぶりを振った。 「もうよしなさい。結果は出ているだろう」 「結果……」 「圭一君。君たちはゆっくり達の言うことをすべて聞いてきた。 すべてゆっくり達の思うままにさせた。そうだね?」 「はい」 「では改めて聞くが、あのゆっくり達は、 他のゆっくりに比べてゆっくりできていたと思うかね?」 俺は少し考え、答えた。 「いいえ」 「子供を殺したんだって?」 「えっ」 自分のことを言われてるのかと思い、一瞬どきりとした。 「れいむとありすがいがみ合い、互いに子供を殺し合ったそうじゃないか」 「あ、はい」 「そして結局、増えすぎた子供たちは間引かれていった」 「……はい」 「まりさ達は他のゆっくりを虐げた。 甘味を与えるたびに、その甘味を家族で奪い合った。 互いに憎み合い、相手の隙を窺い、強者の存在に怯え、強者は反発に苛立つ。 いつ子供たちが殺されるか虐められるかわからず、戦々恐々とする生活。 由美。そんなゆっくり達が、ゆっくりしていると思うのかい?」 由美は眼を伏せた。 「ゆっくりしていなかっただろう?」 「……うん」 「今回のことはいい経験だったな、由美。 ゆっくりという生物は、自分にとって一番いい選択をする判断力が足りていないんだ。 ただ目先の欲求だけで行動し、結局はそのつけが回ってきて面倒事を増やし、苦しむことになる。 ………もしかしたらそれは人間も同じことかもしれないね。程度は大きく違うが」 俺は頷いた。 まあ、ゆっくりと一緒にされたくはないが。 「お前の計画は、ここで終わりにしよう。 今回のことを糧に、改めてゆっくりが本当にゆっくりできる為にはどうすればいいか考え直してみればいい。 あのゆっくり達はこちらで引き取るよ。 もちろん一旦味をしめさせた責任はあるから、できるかぎりは贅沢をさせてやる。 他のゆっくりに悪影響が出るだろうから、個室で飼おう」 「うん。わかった」 由美は頷いた。 「でも、あたしも面倒見てもいいよね」 「うん。好きにしなさい」 好々爺の笑みで、長浜氏は頷いた。 すべて終わった。 運転手のハイヤーに乗せられて長浜氏の邸宅をあとにした今、俺はようやく肩の荷が下りた。 いや、これから結婚や求職もろもろで本当に忙しくなるのだが、 そんなものはあのゆっくり共の相手をすることに比べれば些細なことに思えた。 本当に大変だった。 しかしそれは報われた。 長浜氏は俺を認めてくれ、俺は由美と結婚できることになった。 こうして結果が出てみれば、自分でも驚いたことに、 あのゆっくり達に感謝の念さえ湧きあがってきた。 なにはともあれ、やつらは俺にチャンスをくれたのだ。 「今まで本当にごめんね。大変だったよね」 隣に座る由美が改めて詫びてきた。 「うん。大変だった。すごく」 強がってみせる余裕もなく、俺は正直に苦笑した。 「あんなゲスゆっくりが、本当に可愛いのか?」 俺はここで初めてゲスという言葉を使ったが、由美は否定しなかった。 「うん。おかしいよね」 「どこが可愛いの、あんなの」 「それは、ええと、ゆっくりと人間と同一視してるから可愛くないんだと思う」 「え?」 いつになく真面目な顔をして、由美は言った。 「礼儀とか思いやりとかは、人間のルールだよね。 そういうのがない人は、私も嫌い。 でも、ゆっくりは、人間とは違うルールで生きてる。 ふつうの人間にとっては不愉快かもしれないけど、私は人間とは別物だと思ってるから、腹が立たない。 私ってゆっくりオタクだから、人間の手垢がついてない純粋な子ほど可愛いと思っちゃうんだね」 「そんなもんか」 共感はできなかったが、素直に受け止めることができた。 「でも、今回の失敗でまたわからなくなっちゃった。 ゆっくりのルールって一体なんだろうね。 人間のルールを押しつけたほうが幸せになれるのかな? ゆっくりって、ゆっくりするために生きてるんじゃないの? どうしてなかなか、自分たちでゆっくりできないのかなあ……」 毎日ものすごい数が生まれ、そのほとんどが死んでいくゆっくり。 わざわざ人里に下りてきて、家や畑を荒らしては潰されるゆっくり。 ゲスやレイパーや共食い、同族で殺し合うゆっくり。 ゆっくりとは、一体なんのために生きているのだろうか。 「ゆっ、おそいよ!!ごみくず!!」 由美と一緒に家に戻れば、甲高い挨拶が飛んでくる。 「ぐずぐずしないであまあまをもってきてね!!」 「そのめはなんなの?ばかなの?たちばわかってるの?ばぁーか!!」 「まま、かちくがもどってきたわよ」 「あらそう、どこをほっつきあるいてたのかしら。 そろそろしつけなおしたほうがいいかもしれないわね」 「ゆっくりしないでしね!!げらげらげら!!」 「とっととうんうんをなめるんだぜ!!たっぷりためといてやったんだぜ!!」 子ゆっくり共は成体サイズになり、滑舌もまともになっていた。 改めて眺めると、よくもこんな連中と付き合ってきたものだと思う。 しかし終りが見えた今は、そんな声も耐えて受け流すことができた。 ゆっくり共の罵声を無視し、鞄を放り出して横になる。 無視できることがこんなに有難いとは。 「ゆっ!?ごみくず!!なにゆっくりしてるのぉ!?さっさとおきてせいざしてね!!」 「あまあま!!あまあま!!きいてるのかだぜ!?ゆっくりするんじゃないのぜぇ!!」 「くちをあけるんだぜ!!うんうんをじかにたべさせてやるんだぜ!!」 無視無視。 よじ登ろうとしてきたゆっくり共を適当にあしらって追いやる。 潰してやりたいところだが、こいつらは長浜氏の家に飼われるのだからそうもいかない。 「ぎいでるのがああああああああゆっぐりごろじいいいいいいいいい!!!?」 その言葉にはさすがにどきりとした。 一緒に来ている由美のほうを見る。 しかし由美はそれには触れず、かがみ込んでゆっくり達に言った。 「れいむちゃん、まりさちゃん、ありすちゃん。みんな聞いて。 明日、みんなでお引越ししましょうね」 「ゆっ!?」 「ここではもうゆっくりできないの。 もっとゆっくりできるゆっくりプレイスに連れていってあげる」 ゆっくり共は一瞬きょとんとしてから顔を見合わせ、その後げらげらと笑い合った。 「げらげらげらげら!!ばかがなにかいってるのぜぇ!?」 「ゆっくりプレイスはここなんだぜ!!まりささまがきめたんだぜ!!」 「いいのよ、おねえさん。かちくがむりにあたまをつかわなくてもいいの。 かんがえることはとかいはなありすたちにまかせておきなさいね」 「むのう!!のろま!!ばぁーか!!ろどん!!」 予想できていた反応に、由美は困ったように笑った。 「ね、これからは人間さんの話を聞いて。 今度のゆっくりプレイスでは、人間さんがみんなをゆっくりさせてくれるわ。 でも、人間さんの言うことを聞かなくちゃだめよ」 ぼひゅっ、という音が響く。 ゆっくり共が吹き出したらしい。冗談じゃないという驚き、ちゃんちゃらおかしいという嘲笑の両方だろう。 「ばかなの?しぬの?あたまつかってる? そんなところでゆっくりできるわけないでしょぉぉ!!」 「いーい?にんげんさんはごみくずでのろまな、かとうなせいぶつなの。 ゆっくりがみちびいてあげなきゃいけないの。いうことをきくのはにんげんさんのほう。 わかるかしら?もういちどいってあげましょうか?」 「かわいがってやっていればつけあがるなだぜ!! にんげんのいうことをきくぐらいならゆっくりするんだぜぇ!!」 最後の発言は意味がおかしい。 「勝手よね、私たち。今更しつけようなんて」 「そうだな」 由美に頷いてやる。 虐められているうちは、叩き潰してやりたいと渇望していたものだが、 このゆっくり共もある意味では被害者、もとい被害ゆっくりなのだ。 そう思うとなんだかどうでもよくなった。 ただし、あくまで「ある意味で」という前置きつきでの穿った見方だ。 ガラスを割って侵入してきたこのゲス、追い払ったところで別の人間に潰されるか、 群れの中で孤立して自滅するかだろう。 まあifの仮定なんかしたって無意味だが、こいつらが不幸だなどとは言わせない。 最低限のルールは課されることになるが、これから行くところだって、 死ぬまで存分にゆっくりできる夢のようなゆっくりプレイスだ。 とにかく、明日の昼には迎えが来て、 こいつらは長浜氏の邸宅に移されることになる。 その旨を伝えると、ゆっくり共は俄然騒ぎ出した。 「なにいってるのぉおお!?ばかなのぉぉぉぉ!!!」 「まりささまはここにすむんだぜぇぇぇ!!しねぇ!!!しぬんだぜぇぇぇ!!!」 「このかちくはもうだめね! そこのおすにほかのつがいをさがさせましょう」 「おい、なにゆっくりしてるんだぜぇ!! このばかをなんとかするんだぜ!!あのことをいわれてもいいんだぜぇ!!?」 「あのことって?」 由美が聞いてきた。 「全部話すよ。それより、もう出よう。 もう一晩だってこいつらといたくないよ」 俺は由美を近くのファミレスへと誘った。 「おいぃ!!にげるなだぜぇ!!ごみくず!!もどれぇぇ!!」 「ゆっくりごろし!!ゆっくりごろし!!あかちゃんごろしいいいい!!」 結局、俺は子殺しに加担した全てを、ショックを与えないように細部は省いて話した。 俺がゆっくり愛好派ではないことはもともと承知の上だし、 計画が失敗に終わったという結論が出た今、取り繕うこともなかった。 由美は悲しんだが、結局は許してくれたようだ。 「全部、私のせいよね」 「よせよ。みんな悪かったんだ、俺もお前もおじいさんも、もちろんゆっくりも。 後悔したって始まらない。みんなでやり直そうぜ」 「そうね」 あのゲスどもに関しては、俺はもう関わらないけど。 その日は、由美を送り返したあと近くのビジネスホテルに泊まった。 問題は山積みだが、それでもあのゲスのいない生活を考えるだけで心は浮き立った。 翌日から、俺はそれまでの鬱憤を晴らすかのように勉学に打ち込んだ。 もともと勉強好きな俺は、遅れを取り戻すべく、大学でも自宅でも猛烈に並び、 一時落ちていた成績を再び大学トップクラスにまで戻した。 同時に、就職活動も行った。 有名大学で優秀な成績を収める俺にとって、そう難しいことではなかった。 だが、結局は長浜氏の強い勧めで、長浜グループ関連の建築会社に内定が決まった。 コネを使うことになってしまったが、実力的にも不足はない。 在学中に結婚までしてしまった。 長浜氏の願いで、俺が婿養子として迎えられることになった。 由美は一人っ子だし、家柄を考えれば無理もないか。 順風満帆だった。 我ながらなんというシンデレラボーイ。 あの地獄に堪えた報酬は、十分見合ったものだった。 だが、そんな地位や収入などよりも、 俺は何より、由美との結婚生活が楽しみだった。 愛する妻、子供、ピクニックやキャッチボール。 陳腐だが愛にあふれた家庭生活を想像するだけで、俺はすでに幸福の絶頂にいた。 俺は長浜氏の邸宅に一時的に住んでいた。 就職するまでは、という長浜氏の強い勧めだった。 あの人はなんだかんだで、いろいろと強引に勧めてくる。 一人ではしゃいでいる祖父に比べ、 由美の両親のほうは少々ぎこちなかったが、おいおい打ち解けていけるだろう。 「おにいさん、ゆっくりしていってね!!」 「ごはんのじかんになったらあまあまをおねがいね!!」 長浜氏の邸宅には、ゆっくりが大量にいた。 れいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種やみょん種などレアなものも。 正直うざったかったが、あのゲスどもに比べれば天地の差。 これだけしつけが行き届いていれば問題なく付き合っていけそうだ。 問題のゲス共は、ひどいものだった。 ここに連れてこられてすぐに個室に移されたが、 しつけをしようとしても全く言うことを聞かない。 人間は自分たちの奴隷だ、黙って言うことを聞け、あまあまをもってこいの一点張りで、 そればかりか嬉々として嫌がらせをしてくる。 少々強く言うと、ものすごい剣幕で火がついたように暴れまわった。 長浜氏の知人である有名ゆっくりブリーダーに見てもらったが、これはダメだろうとのことだった。 「ここまでつけ上がったゆっくりは、多分もう無理だと思います。 人間をなめているばかりか、明確な悪意を向けてきている。 しつけるにしても、ものすごく強烈なやり方でないと。 もしかしたら死んでしまうかもしれませんよ」 さすがにそこまですることもない、という長浜氏や由美の意見で、 結局このゆっくり共は、郊外に外出する時以外は個室から出さずに寿命まで勝手にやらせることにした。 といっても、こいつらは外出することはあまりないが。 「しかし、よくもまあここまでつけ上がらせましたね。びっくりしました。 ここまでの個体は初めて見たかもしれません。 逆にゆっくりブリーダー向きかもしれませんよ、あなた」 俺はそう言われたが、勘弁してくださいと首を振った。 そんなゲスどもを、由美は相変わらず面倒を見ている。 長浜邸では、家族だけでなく使用人も大勢のゆっくり共の面倒を見ているが、 あのゲスは使用人でさえ関わりたがらず、結果としてほとんど由美が面倒を見ることになった。 結局相変わらず甘やかしているようだ。 「おねえさんはゆっくりしないでおうたをうたってね!!」 「きたないうたなんだぜ!!ゆっくりできないからとっととやめるんだぜぇ!!」 「げらげらげらげら!!」 しかし、ついに別れのときがやってきた。 俺が就職し、なかなか広いアパートに住むことも決まった。 子供が生まれたら、最初は自分たちの家に迎えたい。 そういう俺の希望で、出産の前に引越しの手続きを済ませることになった。 一応、出産前後は由美の母がアパートに通っていろいろ手伝ってくれる。 由美のお腹の子は五か月になっていた。 お腹の膨らみもはっきりとわかる。 俺の宝だ。 引っ越し前日の夜になって、 由美はあのゲス共に別れの挨拶をしてくると言った。 俺は挨拶などする気も起らず、寝室で由美を見送った。 俺はずっと疑問だった。 身体能力や耐久性はあまりに弱いゆっくり。 しかし、その自意識は身の丈をはるかに超え、 危険な場所やより強大な敵に、自分から飛びこんでいく。 その構造は一体なんなのだろう。 生物として、全く理にかなっていない。 何度考えても、生物学的にまったく説明がつかなかった。 ゆっくりとは一体なんなのか? 由美はいつまでも帰ってこなかった。 十二時時を過ぎて深夜になっても、由美は二人の寝室に戻ってこなかった。 由美がゲス共に会いに行ってからすでに三時間。 いくらなんでも別れを惜しみすぎではないのか。 俺は立ち上がり、ゲス共の部屋に向かった。 「由美。俺だ。いるのか?」 ドアをノックしたが、返答はなかった。 しかし気配はあった。 中でわめき声が聞こえている。ゆっくり共が騒いでいるのだ。 いつもの事だった。 しかし、その声に俺はどこかいつもと違う空気を感じた。 なんだ? 俺はドアを開けた。 「ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!」 「んほぉおおおおおおおおすっきりいいーーーーーーーーーっ!!!」 「ゆっくりするなだぜぇ!!さっさとおきるんだぜぇ!!!」 由美と娘はそこにいた。 「ゆっ!!ごみくずがやってきたんだぜ!!」 「ゆゆっ!?いまごろきてもおそいよ!!げらげらげらげら!!」 「んっほぉぉぉぉおおお!!!きもちいいわああああああ!!!」 俺は膝をついた。 言葉が出なかった。 脳が思考を放棄し、体が震えて動かなかった。 「ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!」 執拗に飛び跳ね、踏みつけていたれいむは、 俺を認めると、そこに乗ったままで罵ってきた。 「くそじじいのあかちゃんはしんだよ!! れいむだっておちびちゃんをころされたんだからね!! ゆっくりりかいしてくるしんでね!!ざまぁ!!」 まりさ共が、由美の体に体当たりを繰り返している。 「まりささまのゆっくりベッドでゆっくりするんじゃないんだぜぇ!! くそどれいにそのふかふかはもったいないのぜ!!おきるんだぜえぇ!!」 由美は動かなかった。 頭をまりさ用の天蓋つきベッドに突っ込んだまま、ぴくりともしなかった。 天蓋は一部の骨組が折れ、由美の頭の下に敷かれている。 「あかちゃんのおはだすべすべよぉぉぉぉぉ!! なんかいでもいけるわあああああんほおおおぉぉぉすっきりいいいいいーーーーっ!!!」 ありす共が粘液にまみれながら絶叫している。 親子五匹のありす共が、それにまとわりついて蠢いていた。 地獄。 無間地獄。 こいつらは。 俺は泣きながら這いずっていった。 震える喉からやっとのことで絞り出したのは、次の問いかけだった。 「どうして」 それは、このゲス共に向けた質問ではなかった。 俺は何に向かって問いかけたのだろうか。 「ゆっ!!ごみくずはばかすぎてあきれるんだぜぇ!! ごみくずのたくらみなんてまりささまはすべておみとおしなんだぜ!? おきのどくなんだぜぇ!!げらげらげらげら!!ふっきんほうかい!!」 まりさが笑っている。 「ゆふぅ~……とかいはなせれぶのありすには、 いなかもののかんがえることなんておみとおしよ」 「ままはおみとおしよ!あてがはずれたわね!!んほっ、んほほぉぉ!!」 「どうしてわかったかおしえてあげましょうか? ありすがまえにすんであげていたゆっくりぷれいすのにんげんは、 はじめはありすにぞっこんで、かいがいしくありすにほうししていたわ。 ありすがいえば、すっきりようのゆっくりをつぎつぎともってきた。 にんげんがあれこれやってくれというから、 やさしいありすはおのぞみのぷれいをみせてあげもしたわ」 このありすの飼い主が、あの技術を教えたのか。 「でも、そのにんげんは、あれほどかわいがってもらったおんもわすれて、 このありすをうらぎった。 にんっしんっしたのよ。 にんっしんっしてこどもがうまれたたとたんに、 そのにんげんはありすをゆっくりぷれいすからほうりだした。 じぶんのこどもにかまけて、 ほんらいのしごと、ありすのどれいのせきむからにげだしたのよ!」 「んほっ、まったくにんげんはいなかもののかとうどうぶつよね! ちゃんとみてないとすぐににげだすんだから!!」 「このおねえさんがにんっしんっしたときから、 ありすにはこうなることはわかっていたわ。 あなたたちにんげんは、こどもができると、まわりがみえなくなる……」 「だからまりささまがまびいてやったんだぜ!!」 まりさが引き継いだ。 「こどもをみてしこうていしするまえに、 まりささまがまよいのたねをつみとってやったんだぜ! ごみくずどもはいままでどおり、つよくてかっこいいまりささまにしんすいして、 まりささまだけにつかえていればいいんだぜ!!」 「あらりょうじだったけど、れいせいになってよくかんがえなさい。 おちついてかんがえればこれがただしいとわかるはずよ。 いなかもののかとうせいぶつでもね!!」 「れいむはおまえにこどもをころされたんだよ!! こどもをころされるくるしみがわかった!?もっとくるしんでね!!げらげら!!」 ゆっくり共は、悪意の塊のような表情を浮かべてせせら笑っていた。 それはひどく醜く、どれほど憎んでも足りなかった。 「こどもはありすにおかされてしんだよ!! くやしい?くやしい?ねぇねぇ、いまどんなきぶん?どんなきぶん?ゆっゆっゆ~♪」 震えて泣きながら、俺はゆっくりと疑問が氷解していくのを感じていた。 「ざまぁ!!ざっまぁぁぁぁ!!くやちぃくやちぃ~~~~~♪」 ああ。 「げらげらげら!!そしてこのかお!!ないてるときがいちばんばかみたいなんだぜぇ!!」 そうか。 「ごみくずはむせびなき~♪れいむたちはいいきぶん~♪ゆっゆ~~ゆゆゆ~♪」 お前たちは。 「このおねえさんひっどいかおよねぇ、みっともないったらありゃしない! とかいはにこーでぃねーとしてあげるわ!んほおおぉぉすっきりいいーーーーーー!!!」 苦しむために生まれてきたんだな。 由美は死んではいなかった。 しかし、病院で医師に宣せられたことは死と同義だった。 頚椎骨折。 あの部屋で倒れたとき、首の部分がちょうどまりさの天蓋つきベッドを下敷きにして、 その骨組をなしていた木材にぶつかり、頚椎を折っていた。 脊髄を損傷して由美は全身不随となり、意識も失ったまま戻らなかった。 病院のベッドで点滴を受け、なにも映さない目で天井を見つめるだけの生活になった。 子供は女の子だった。 発見したときにはすでに手遅れになっており、 その亡骸は、長浜家の墓に埋葬された。 俺が決めてあった名前が、その墓には彫られた。 長浜氏と俺の意向を受け、 その事件は日本中に大々的に報道された。 その主犯であるあのゲス共は事情聴取を受け、 警察やテレビの取材班に喜々として自分の所業を語り、 その様子は日本中に放映された。 「まずまりささまがあしにまりさしゃいにんぐあたっくをくらわしたんだぜ!!」 「そしたらおねえさんがぶざまにたおれたんだぜ!!おとうさんはつよいんだぜ!!」 「たおれたところにれいむがおなかのうえでぴょんぴょんしたんだよ!! ごみくずのあかちゃんはすぐにでてきたよ!!にんげんさんはもろいね!ぷげら!!」 「あかちゃんのおはだはとってもすべすべもちもちしていてとかいはだったわ。 またもってくるならすっきりしてあげてもいいのよ?」 「おなかすいたあああ!!れいむおうちかえるうううう!!」 それは飼いゆっくりによって人間が殺された日本史上初の事件だった。 日本中がその事実に震撼し、愛護派の多くが認識を改め、虐待派がさらなる気炎をあげた。 その日から、日本中で捨てゆっくりの数が増大し、 同時にむごたらしく殺されたゆっくりの死骸が町に散乱し、市民はその処理に追われた。 だが、殺されるゆっくりに同情する者はいなかった。 日本の法律では、ゆっくりを罰する法は制定されていない。 人を殺し、全身不随に追いやったそのゆっくり共を憎み、処刑を望む声は高かったが、 俺はそのゲス共を手元にとどめた。 長浜氏は憔悴しきってうなだれていた。 俺はあの居間でテーブルをはさんで向かい合い、黙っていた。 居間にゆっくりの姿はない。 長浜氏の邸宅から、ゆっくりの姿は一掃されていた。 すべて加工所に送られていた。 もはやゆっくりの姿を見るのも嫌なのだろう。 先日は、道端で出会った野良ゆっくりにあまあまを要求され、 長浜氏らしからぬ激昂を見せて踵で一息に踏みつぶしていた。 いまではゆっくり愛護会の会長も退いている。 重苦しい沈黙が流れたが、 やがて長浜氏が言った。 「すべて私のせいだ」 孫と同じ事を言う老人が悲しかった。 「ただ一度だけ、一度だけ叱りつけてやればよかった。 強くたしなめれば、あの素直な孫は言うことを聞いてくれ、あんなことはやめたろう。 私がそれをせず甘やかしたために、たった一人の孫娘とひ孫を、君の妻と娘を死なせてしまった」 「お祖父さん」 「私を恨んでくれ」 震える老人はひどく小さく見えた。 「それは僕の言う事です……あなたの孫娘を守れなかったこと、深くお詫びします。 このことは、一生をかけて償うつもりです」 「圭一君」 俺は長浜氏に向かって、毅然として言い放った。 「僕は誰も恨んでいません。 僕の恨みは、あのゲスゆっくり共に全て向けられています」 「君の注文どおり、やつらは元の個室でのうのうと贅沢三昧の日々を送っておるよ」 「そのようですね。ありがとうございます」 「どうするつもりかね?」 「どう、とは」 「やつらをどうするのかね」 「質問で返すことをお許しください。 お祖父さんはどのようにしたいとお思いですか?」 「殺してやりたい!」 テーブルに拳を叩きつけて長浜氏は叫んだ。 「この手で引き裂いてやりたい、踏みつぶしてやりたい!! やつらは、やつらは……私は今まで………今ごろになって………」 すべては遅すぎた。 長浜氏は自分を責めていた。 あの日から眠れた日がどれだけあったろうか。 「僕に任せてくださいませんか」 「……どうするのかね」 「一息に殺したところで、この恨みは晴れるものではないでしょう」 俺はノートを取り出し、長浜氏の前に置いて言った。 「僕は人をやめます。どうぞ軽蔑してください」 俺の顔を見てから、長浜氏はゆっくりとページをめくった。 彼は眼を見開いた。 ノート一冊分にびっしりと書き込まれたそれは、俺の計画書だった。 「これは……」 「あの日から書き続けていました。まだ未完成ですが」 眉をひそめてそのノートを食い入るように見つめていた長浜氏は、 自分の頬を掴みながら呻いて言った。 「……わたしはかまわない。 しかし君は……それでいいのか」 「はい」 「君にはまだまだ先の人生が残っている。 こんなことに……こんなことで……人間を捨てることはない」 「僕はこれから先の人生を、あのゆっくり共に捧げるつもりです」 「私がやる。これは私がやろう。しかし君は」 「これから先、同じ犠牲者を生まないためです。 そしてこれは、ゆっくり達のためでもあります」 「こんなことが?」 俺は頷いた。 狂人と思われようとかまわなかった。 「ゆっくりは苦しむために生まれてきたんですから」 「……それは」 「あの生物がどういう生き物なのか、ようやくわかったんです。 あいつらは弱い。痛みに弱く、耐久性もなく、ひどく簡単に苦しみ、壊れる。 そのくせ悪意や闘争心が強く、強い外敵に向かって無謀な喧嘩を売り、執拗に挑発する。 どこにも根付くことができないくせに、どこにでも入り込む。 そんなゆっくり共が生物として安定している状態は何か、ずっと考えていました。 そしてそれは、苦しんでいる状態でした」 「それは、君……いくらなんでも」 「そう考えれば、すべてにつじつまがあいました。 やつらの行動はすべて、苦しむというただそのことに向けられている。 生まれては死に続け、憎まれ虐げられつづけるゆっくり共は、 そのことですでに生物としての目的を達しているんですよ」 「………」 「僕は残りの一生を、やつらのために捧げます。 今こそ僕は、苦しむために生まれてきたやつらの奴隷になりましょう。 人間のために、ゆっくりのために、お互いの種の安定を目指そうと思います」 「圭一君」 力なくうなだれ、長浜氏は言った。 「君は変わったな」 「変わりました」 俺は答えた。 計画は実行されることになった。 計画には長浜氏が全面的に尽力してくれることになり、 さらに二か月間が準備期間にあてられた。 都心からそう遠くない、しかし奥まった山奥の廃墟が選ばれ、 目的のために改築された。 その間、ゲスどもはあの個室で贅を尽くしていた。 長浜氏や俺の指示に従い、使用人たちは毎日やつらの面倒を見ていた。 実行の日。 今、俺は改築された建物の中で、 大きなテーブルの前に立っている。 テーブルの上には、睡眠薬を食事にまぜられた十三匹のゆっくりが眠っている。 「ゆぴぃ……ゆぴぃ……ゆぴぃ……ゆぴぃ……」 あの日、俺の部屋に侵入してきたまりさとれいむ。 まりさが外から連れ込んできたありす。 それぞれが50cmのバランスボール大だった。 そしてその子供、子れいむが三匹、子まりさが三匹、子ありすが四匹。 十匹とも30cm大のバスケットボール大。 テーブルを囲むのは、計画の実行に関わる人々。 長浜邸の使用人やゆっくりの研究者たち。 計画のリーダーは俺だ。 俺の計画を、これからこの手で実地に行うことになる。 こいつらのために、持てるすべてを捧げよう。 涎を垂らしながら泥のように眠りこむゆっくり共に向かって、 俺は静かに声をかけてやった。 「ゆっくりしていってね」 続く
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/51.html
うちのゆっくりれいむが風邪を引いた。 「ゆぅ……ゆぅ……」 部屋の隅に置いた段ボールの中で、小さな声を漏らしつつ、ふくらんだり 縮んだりしている。 覗いてみると、額にうっすらと汗をかいて、目を閉じていた。まるまると した体(頭?)が、心なしか扁平につぶれている。 頬が桃のようにうっすらと赤い。 手で触れると、蒸篭から出したての饅頭のように、熱かった。普段はさら さらと乾いているはずの頬も、汗でぬめっている。 「ゆ……?」 薄目を開けたゆっくりが、挨拶しなければいけないと思ったのか、小さく 言った。 「ゆくり、してて、ねっ」 舌足らずになっている。ふぅ、ふぅ、と浅い息を繰り返す。 頬をぺたぺたと撫でて、おまえこそゆっくりしなさい、と言い聞かせた。 ゆっくりは苦しそうに顔をしかめて、もそ、もそ、と伸び上がった。 ジャンプしたつもりなのだろう。だが地面から離れることもできない。 「ゆぅ゛ぅ゛……」 と、うめいたかと思うと、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。 「つらいよぉ、頭ががんがんするよぉ…… ゆっくりできないよぉ…… おねがい、たすけてね……」 昨日湿ったまま扇風機の前で寝てしまったからだ、と言い聞かせた。水浴 びをしたら、すぐタオルにくるまって、乾かさなければいけない。それでな くてもこの季節、カビたり腐ったりしやすい。気を付けなさい、おまえは饅 頭なのだから。 「ああん、あたまいたいよぉ…… いたくて死にそうだよぉ…… れいむ、しんじゃうよ……あぁん、あぁん」 説教は、どうやら届かなかったらしい。斜めにぐったりと潰れて、ゆっく りはぐずぐずと泣き始めた。 持ち上げる。見た目だけではなく、手触りもいつもより緩い。たゆたゆし た健康的な柔らかさではなく、皮が削れて薄くなってしまったような、危う い柔らかさだ。 腕の中で、ねろんっ、と横に伸びた。ちょっと乱暴にしたら、すぐ破裂し てしまいそうだった。 光のないうつろな目をして、息を荒げたまま、つぶやくように言う。 「だっ、だめだからね…… れいむ、やぶれちゃうから…… おちたら、しんじゃうから…… ゆっくり下においてね……! おねがいだからね……!」 身の危険を感じたらしく、力なく体をもぞつかせる。朦朧としてしまい、 相手がわからないのだ。もちろん、腕の中から逃げ出すほどの力もないのだ が、懸命さはひしひしと伝わってきた。 箱に戻して、買い置きの冷えピタをおでこに貼ってやった。「ゆっ!」と かすかにつぶやいた。 気持ちいいのかどうか、数回聞いてみた。四度目にやっと、こくりと小さ くうなずいた。 いつもなら冷えピタを貼ると非常に喜ぶのだが、今夜はその余裕もないら しい。 葛根湯をスプーンで口に入れても抵抗しなかった。苦味までわからなくなっ ていた。 心配になったので、いっしょに寝ることにした。 枕の横に置いて、明かりを消す。 横になると、耳のそばで「ゆぅ……ゆぅ……」と苦しげな寝息が聞こえた。 髪に鼻を埋めてみた。普段、砂糖の甘い匂いのするゆっくりの髪は、少し 脂じみて辛い匂いがした。 ぶるぶるっと震えて、寝言ともうわごとともつかないつぶやきを漏らす。 「あつい……さむいよぉ…… ゆっくりしたいよぉ……」 バスタオルを取って、かけてやった。裾を丁寧に頬の下に入れ込んだら、 泥棒の頬かむりのような姿になった。 十分ほど様子を見たが、それでも寒気は収まらないらしかった。がたがた とひっきりなしに震えている。 仕方がないので、抱きしめてやった。ゆっくりは「ゆぐ……」とうめいた が、もぞもぞとこちらの胸に顔を押し付けて、ぴったりとくっついた。熱い 息が夜着越しにふぅふぅとかかった。 その夜はずっと、ゆっくりを見てやった。暑がってバスタオルをぶるぶる と振り落とす都度かけなおし、二度も冷えピタを貼り替えてやった。 こちらが眠ってしまうと、寝ぼけて踏み潰すおそれがある。 だから寝ることもできなかった。 できなかったはずなのだが、いつの間にかうとうとしてしまった。 はっと目を覚ますと、窓の外が明るくなり始めていた。どこかでカラスが 鳴き始めた。 ゆっくりはまたしてもバスタオルを振りほどいていた。くしゃくしゃになっ た汗ばんだタオルにうずもれて、寝汗で前髪を張り付かせ、眠っている。 髪に手をからめてゆっくりと撫でていると、あることに気づいた。 耳障りな寝息が聞こえない。 落ち着いた、静かな呼吸が続いている。そういえば、こころなしか熱も下 がったようだ。 安心したので、そっと持ち上げて段ボールに戻した。 日が昇ってから起きだして、食事を作っていると、「ゆっ! ……ゆうっ!」 と大きな声が聞こえた。 段ボールを見に行くと、夢から覚めたようにきょとんとした目で、ゆっく りが見上げていた。こちらの顔を見ると、ようやく安心したようにいつもの 得意げな顔になって、「ゆっくりしていってね!」と言った。 もういいのか、と具合を尋ねた。 「うん、れいむげんきになったよ! おねつさがったし、さむいのもなくなったよ!」 ばふばふ、と二度ほど跳ねた。わずかだが、確かに離陸していた。 「れいむ、おなかすいたな! ゆっくりたべさせてね!!!」 ほんの六時間前には死にそうなほどぐったりしていたのだから、無理して はいけない、最初はおかゆにしなさいと言い聞かせたが、ゆっくりは聞かな かった。おかゆどころかホットケーキがいいと言い出した。 おかゆにすると繰り返すと、不意にゆっくりはあの、ジト目で口を尖らせた非 常に不愉快な表情になって、つぶやいた。 「れいむ、とってもつらかったのに、おいしいものもくれないんだ」 抱き上げて、ゆふゆふと軽く揺さぶりながら、台所に連れて行った。まだ 中身がぼさぼさした感じで弾力に乏しかったが、皮の厚みは戻りつつある気 がした。 テーブルにゆっくりを置いて、鍋に向かった。小鉢におかゆを取って、塩 を振り、みつばを乗せた。 それを持って、ゆっくりと向かい合わせに腰掛けた。ふー、ふー、と顔に 向かって湯気を吹き流してやると、表情がみるみるほぐれ、薄く開けた口に よだれを貯め始めた。 香りに気を取られてぽかんとしているゆっくりの前に、よく覚ましたおか ゆをスプーンで差し出した。反射的に、ゆっくりがスプーンにかぶりついた。 「あむっ! も~ぐも~ぐ……」 ぱあっ、と明るい顔になって叫ぶ。 「おいしーい♪」 一口でホットケーキのことは念頭から消えたらしい。その後も次々とスプ ーンにかぶりついて、一皿空けてしまった。 「もっとほしいよ! ゆっくりおかわりちょうだいね!」 病み上がりなのにそんなにたくさん食べてはいけないと言ったが、もちろん聞 き分けなかった。 「ゆゆっ? れいむはもうびょうきじゃないよ! いっぱい食べてもだいじょ うぶだからね!」 なおもそう要求するゆっくりを抱いて、縁側に行き、腰を下ろした。顔の 高さまで持ち上げて、何度も頬ずりをする。 むにむに、すりすりとやっているうちに、何かが伝わったらしく、「ゆ……」 とゆっくりが身動きした。 不意に、むにっと自分から頬を押し付けて、言った。 「いっぱいありがとうね! 今度はゆっくりしてね!!!」 ようやく、少しは報われた気になった。 縁側にゆっくりを置いて、寝室に向かった。戸を締めて横になろうとする と、もぞもぞがたがたと戸をこじ開けて、ゆっくりが入ってきた。 「いっしょにゆっくりするね!!」 そういうわけで、再び胸の中にゆっくりを収めて、昼寝することになった。 ゆっくりは時おり楽しげに「ゆ」「……ゆっ!」と寝言を漏らし、ほんの り冷たく柔らかくなっていた。すっかり回復した様子だった。 その日の午後も遅くまで、ゆっくりとゆっくりした。 =============================================================- YT ゆっくりよかったね! -- 名無しさん (2009-07-14 22 41 36) やっぱゆっくり可愛いけど、飼い主もゆっくり想いですな -- 名無しさん (2010-03-21 02 51 33) 風邪はつらい。 -- 名無しさん (2010-11-27 14 34 06) 回復はや! オレは3日くらい寝こんでたぞ -- 名無しさん (2014-09-22 09 40 53) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1570.html
灰色に染まった壁と、鉄格子で区切られた窓。 冷たく、硬い地面。 無機質に区切られた小さな部屋で、1匹のゆっくり霊夢が途方に暮れていた。 「ゆっくりさせて!」 大きさはバスケットボールほどにもなる。 そして頭には、一本の茎が生えていた。 「あかちゃんもゆっくりできないよ!」 心配そうに見上げた茎には、9匹の赤ちゃんゆっくりが実っている。 れいむ種が5匹、まりさ種が4匹。 どれもプチトマトより一回り小さいが、あと数時間もすればぷっくりと実って生れ落ちるだろう。 「まりさ!どこにいるのぉお!?」 何も置かれていない、8畳ほどの部屋。 その部屋の中心でれいむは叫んだ。 茎に実った赤ちゃんに気をつけながら周囲を見渡すが、最愛のゆっくり魔理沙はどこにもいない。 「まりざあ・・・まりざぁ・・・」 赤ちゃんを身ごもっているゆっくりは、パートナーへの依存度が高い。 このれいむも例外でなく、姿の見えない伴侶を求めて身重の体を引きずり這いずり回っていた。 「まりさ・・・にんげんにいじわるされてるのかな・・・まりさ・・・あいたいよ・・・いっしょにゆっくりしたいよ・・・」 れいむはこの部屋に連れてこられた時のことを思い出していた。 それは昨日のこと。 れいむとまりさは森の入り口で日光浴をしていた。 春先とはいえ、まだ寒さの残る日が多い。 あたたかいお日様にあたって赤ちゃんにゆっくりしてほしい、まりさが提案したことだ。 最初、れいむは反対した。 自身の両親は日光浴の最中に人間に捕まったからだ。 それも、茎に命を宿しているときに。 人間達は両親に宿った、妹となるはずの赤ちゃんを皆殺しにした。 巣穴を襲撃され、茎を同じくした姉妹が次々と殺され、一家は崩壊した。 れいむが助かったのは、親のまりさが最後まで諦めずに守ってくれたからだ。 だが結局親まりさは力尽き、残ったのはれいむ1匹となってしまった。 れいむは住み慣れた土地を逃げ出した。 ただ怖かった。 川を越え、野原を越え、山を越え、皮がぼろぼろになりながらもれいむは生き延びた。 時は流れ、あのときの親ゆっくりと同じくらいの大きさにまで成長できた。 だが人間への恐怖心がなくなることはなかった。 かつての両親の姿が頭によぎり、外に出る気が起きなかったのだ。 しかし、赤ちゃんに日光浴をさせてあげたい気持ちもあった。 いつもおいしいご飯を取ってきて、自分をゆっくりさせてくれた親まりさ。 幼い自分を必死で守ってくれた親まりさ。 そんな親まりさを、れいむはずっと尊敬していた。 自分も赤ちゃんだけは何があっても守る、ゆっくりさせてあげると決めていたのだ。 パートナーのまりさは言った。 れいむとあかちゃんはまりさがぜったいにまもるよ、と。 だかられいむはその言葉に甘えることにした。 「ゆっくりしたけっかがこれだよ・・・ゆぅぅぅぅ・・・」 結局、親と同じように人間に捕まってしまった。 まりさは懸命に戦ってくれたが無駄だったのだ。 れいむの前に一人の男が現れた。 右手はまりさの底部を掴み、逆さ吊りにしている。 「ゆっ!おにいさん、まりさをかえしてね!!」 れいむは餡子脳ながらも、その男を覚えていた。 自分とまりさを誘拐した男だということを。 「ほらよ」 ふわりと宙を舞い、まりさは硬い床に落とされた。 「ゆべへっ!」 顔面から落下したまりさに、れいむは擦り寄った。 幸い、餡子は吐いていない。 死ぬことはないだろう。 「まりさ、まりさっ!ゆっくりしよう!ゆっくりしていってね!!」 なかなか顔を上げないまりさ。 れいむは不思議に思い、まりさの体を見回した。 「ゆっ・・・!?」 丸々とした、美しい曲線を描いていたまりさの輪郭は、どこにもなかった。 あちこちが歪み、ところどころ陥没や隆起を繰り返している。 何度も殴られたであろう皮は、餡子の色がうっすらと滲み、黒いアザを作っていた。 逆さ吊りにされて帽子が落下しなかったのは、ぼこぼこになった頭部がうまいこと引っかかっていたためだ。 「ど・・・どうして!?まりさ!!あのにんげんにやられたの!?」 れいむは男に振り返り、威嚇をしようと息を吸い込んだ。 だが、途中で膨れるのをやめた。 膨れて不用意に茎を動すと赤ちゃんに悪影響があるかもしれない、れいむはそう判断したのだ。 「おにいさん!れいむはゆっくりおこったよ!!まりさにひどいことをしないでね!!」 精一杯の抗議。 しかし男はれいむの言うことなど気にもせず、籠から道具を取り出し吟味していた。 ハンコほどの太さがある鉄の棒と、ハエ叩き、アルコールランプ。 れいむには、何に使う道具なのか理解できなかった。 「れ、れいぶぅ・・・・」 背後から聞こえてきたまりさの声に、れいむは振り返った。 「ま!まりざぁああ!!?」 まりさの顔面は真っ黒に腫れ上がり、不気味な色をしていた。 暴力に耐え切れなかった内部の餡子が行き場を失い、皮の下で蠢いているのが見て取れる。 皮に傷らしきものはなかった。 人間で言うと、内出血に近い状態かもしれない。 「ごべんねぇ・・・まりざあ・・・・ごべんねえ・・・」 痛みを少しでも和らげてあげたい。 そんな思いから、れいむはまりさに頬擦りをした。 「ゆべぇっ!!いぎゃぁっ!!いぢゃいいい!!」 膨れた傷に力強く押し付けられたれいむの頬は、まりさに激痛をもたらした。 「やめでぇ!いだいよぉ!!!」 予期せぬ悲鳴に、れいむは思わず体を引いた。 そしてその言葉の意味をゆっくり理解する。 「ご、ごめんねまりさ!もうすりすりはやめるよ」 まりさは触れられた頬が痛いのか、目から涙をこぼした。 「ごべんねれいぶ・・・まりざ、れいむをまもっであげられながった・・・!それに・・・ありざのがわぃいかおがぁ・・・!」 「ゆっ!?ちがうよ!まりさはわるくないよ!!ぜんぶあのおにいさんがわるいんだよ!!」 元はといえば、いきなり自分たちを誘拐したあの人間が悪いのだ。 頬をあわせることはできないが、れいむはまりさに寄り添う。 そしてまりさの分の怒りも込めて、れいむは男を睨み付けた。 男はそのやりとりを冷めた目で見ていた。 この2匹を捕まえてから、男はまりさだけを隔離し暴行を加えた。 男にとって、まりさは重要ではなかった。 れいむの茎に実る赤ちゃんが大きくなるのを待つ間の退屈しのぎに利用されただけだ。 捕獲の際、邪魔をしたことに対する制裁の意味もあったが。 暴行に使われたのはハエ叩き。 竹製のごく一般的なものである。 スナップをきかせて延々と叩いた結果が、あのボコボコ饅頭である。 ハエ叩きは当たる部分の面積が大きいため、皮を破ることなく衝撃だけを伝える。 右頬、左頬、底部に頭頂部、後頭部。 全身余すところなく叩かれたまりさは、動くことすら苦痛なはずである。 念入りに叩かれた顔面は、見るも無残なほどに黒あざだらけだ。 『やめて!もういたいのいやだよ!』 『いだいよぉ!まりざのおかおがぁ!』 『きぼちわるいよ!なかがきもちわりゅいぃ!』 そんな叫びの声を掻き消すように、男はハエ叩きを振り続けた。 最後の頃になると、その場にいないれいむにまで助けを求めていた。 れいむを守るために戦っていたというのに、そのれいむに助けを求めるとはなんとも情けない話だ。 そして今、れいむの茎に実る赤ちゃんはプチトマトよりも一回り小さいくらいに成長していた。 捕獲した時点ではビー玉ほどであったから、だいぶ大きくなったといえる。 もうまりさに用はない。 男はハエ叩きを手に取った。 「ゆっ?おにいさんなんなの!?ゆっくりこないでね!!」 男に振り返り、れいむは警戒態勢をとる。 まりさは男の手に握られたハエ叩きを見て、黒あざだらけの顔を青くした。 「やぁああ!!!いだいのいやだよぉおっ!!!もうたたがないでえええぇぇ!!!」 ひゅんひゅんと、風を切る音を立てて男は素振りをした。 まりさの様子を見て、れいむはとっさに男の前に立ちはだかったが、横を難なく素通りされてしまった。 「さあ、続きをやろうか」 「ゆぅああ!!ゆるじでね!!もうゆるじでねえ!!」 壁に追い詰められたまりさに、容赦なくハエ叩きが飛ぶ。 鼓膜を突き抜けるような、乾いた音が部屋に響いた。 「ゆべえ!!いだいよぉお!!やめでええ!!」 倒れようとするまりさ。 そうはさせまいと、まりさの顔面に向かってハエ叩きがアッパーをする。 「びっぶぅ!!ゆぅぐぅ!!」 仰向けに倒れたところで、男は右頬と左頬に往復ビンタのごとく連続して攻撃をする。 手首のスナップが重要な技である。 「おにいさんやめてね!!まりさがいたがってるよ!!ゆっくりしないでやめてね!!」 ずりずりと近寄ってくるれいむに向かって、男はハエ叩きを突きつけた。 「赤ちゃんを叩き落としてやろうか?」 その言葉に先に反応したのはまりさであった。 「やべてね!まりざとれいむのあがぢゃんをいじめないでねっ!!」 「まりさ・・・!」 「れいむぅ、れいむは離れててね・・・!まりさならだいじょうぶだよ!」 必死で体を起こすまりさ。 それを見たれいむは無言でうつむくと、男から離れた。 「まりさぁ・・・」 「ゆっくりしていってね!!あかちゃんといっしょにゆっくりしていってね!!」 れいむに笑顔を見せたまりさだが、すぐにその表情は崩された。 やむことのないハエ叩きの嵐。 皮が破れないから餡子も漏れない。 いつまでもまりさの苦痛は続いた。 「まりさ・・・!まりさ・・・!」 れいむはただ、愛するものの名前を呼ぶことしかできなかった。 10分もすると、まりさは声すら上げなくなった。 男がハエ叩きを振り上げたまま、動作を止めた。 ドラ焼きのように平べったくなったまりさは僅かに痙攣しているものの、動く様子は見られない。 「まりざぁああ・・・・!!」 近寄ろうとするれいむに、男はハエ叩きを向けて牽制した。 「そろそろいいか。じゃあな、まりさ」 そう言うと男は立ち上がり、まりさを見下ろした。 一瞬、れいむに視線を移したがすぐに戻す。 「なにをするのぉぉ!?まりざをいじめないで!!」 れいむが言い終えるのを確認し、男は右足でまりさの体を蹴り飛ばした。 「ゆ゙っ!」 それだけ言い残し、饅頭もといドラ焼きがはじけ散る。 飛び散った餡子が壁にこびり付いた。 「い゙ゆあぁあ゙ああ゙ああ゙ああぁぁ!!!!!まりざああ゙あぁああぁあ゙ああ゙あ!!!!」 形が歪んだ帽子を前に、れいむは泣き崩れた。 最後まで赤ちゃんと自分を守ってくれたまりさ。 ありし日の親まりさと姿が重なり、れいむは赤ちゃんのことも忘れて泣き叫んだ。 「静かにしろ」 れいむの頬に、強烈な衝撃が走る。 「ゆびぃっ!?」 ひりひりと頬が痛む。 男の手に握られたハエ叩きを見て、れいむはその痛みの正体を知った。 まりさはこんなに痛いことをされていたんだ、れいむは身の危険よりも先にまりさへの感謝を覚えた。 「やべでえ!!れいむにはあがぢゃんがいるんだよ!!やべでねえっ!!」 「だったら黙っていろ。それなら叩かない」 普通だったら構わず泣き叫ぶところであったが、頬の痛みが冷静な考えを生み出した。 いま泣き叫んではまりさが守ってくれた赤ちゃんが危険にさらされる、と。 「ゆっ・・・・!ゆ・・・・!」 れいむはこぼれそうになる嗚咽をどうにか喉の奥に押し込め、代わりに涙を垂れ流した。 「そうだ。そうやって黙っていれば叩かない。赤ちゃんもちゃんと産める」 ハエ叩きを無造作に床に投げ捨て、男はアルコールランプに火をともした。 「ゆっ・・・!」 燃え上がる炎に、れいむは餡子が冷える思いをする。 それは本能からくる反応でもあったし、経験からくる反応でもあった。 れいむは以前、足(底部)を人間に焼かれ、動くことができなくなったゆっくり魔理沙の話を聞いたことがあったのだ。 あのゆっくり魔理沙も、人間に捕まった伴侶や子供を殺されて開放されたのだという。 男は右手に持った鉄の棒を火にかざしていた。 長さも太さも、ハンコほどだ。 熱で火傷をしないため、手ぬぐいのようなものを間に挟んで棒を持っている。 「さっきお前を叩いた道具、それで生まれたばかりの赤ちゃんを叩いたらどうなると思う?」 れいむに目線を移すことなく、男は言った。 声を出していいものかれいむは迷ったが、これはきっと大丈夫だろうと判断した。 「ゆっ・・・」 声に出すのも恐ろしい、れいむは返答に困る。 だが黙っていては、また叩かれてしまうだろう。 れいむは意を決して答えを告げた。 「・・・つぶれちゃうよ。・・・やめてね!おねがいだよ!」 餡子脳でも簡単に導き出せる結論だ。 あの叩く部分は赤ちゃんゆっくりの体よりもはるかに大きい。 さきほどの力で叩かれれば、簡単に潰れてしまうだろう。 「よくわかってるな。じゃあ俺の言うことを守れば赤ちゃんは潰さない」 「ゆっ!はやくおしえてね!!ぜったいにまもるよ!!」 火にかざした鉄の棒を見ていた男の目が、れいむを捉える。 「目を閉じて、俺がいいというまで黙っていろ。そうしないと・・・」 「ゆっくりとじるよ!だからあかちゃんをいじめないでね!!」 言い終える前にれいむは目を閉じた。 理解の早いゆっくりに、男は関心した。 「いいって言うまでだぞ。途中で目を開けたら、赤ちゃんがまりさみたいになるぞ」 「ゆぎっ・・・!ぜったいにあけないよ!!」 まりさみたいに、という表現にれいむは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、目は閉じたままであった。 それを確認すると、男は熱した鉄の棒を火の上かられいむの頭上に移動させた。 そこにいるのは丸々と実ったれいむの赤ちゃんだ。 どれも順調に育っているが、まだ生れ落ちるほどではない大きさ。 男は一番手前にいた赤まりさに目をつけた。 左手に持ったピンセットで、ぴっちりと閉ざされた赤まりさの口を開ける。 目を閉じたままの赤まりさが表情に疑問符をつけるが、そんなものはどうでもいい。 赤まりさの口は、成長段階だけあってあまり大きくなかった。 ハンコの太さがぴったり合うくらいだろう。 喉も小さく、綺麗に研いだ鉛筆で穴を開けたくらいの大きさだ。 声は出るのかわからない。 男は熱した鉄の棒を躊躇うことなく、赤まりさの口内に押し込んだ。 予想通り、太さはぴったりであった。 「ゅ゙っ!?」 蚊の消え入るような、小さな悲鳴が男にだけ届いた。 れいむは赤ちゃんの危機も知らずに、目を閉じたまま待っている。 高温の鉄の棒は赤まりさの口内を焼き付けていく。 何度か鉄の棒を火に当て直しながら、男は鉄の棒で赤まりさの口内をこねくりまわした。 赤まりさはどうにか苦痛から逃れようと体を揺するが、男相手では無意味であった。 男が棒を抜くと、口をあけたままの赤まりさがいた。 口内はコゲで硬くなり、閉じることもできない。 喉も完全に焼き潰れたため、声を発することも、ものを食べることもできないだろう。 口としての機能はなく、ただ窪んでいるだけ。 そのことをわかっているのかいないのか、赤まりさは今にも死にそうな顔をしていた。 閉じた瞳から今にも涙があふれそうである。 男は思わず顔がにやけた。 時間がかかったが、男は同じように全ての赤ゆっくりの口を丸コゲにした。 赤ちゃん達から「くち」がなくなってから10時間ほど経った頃。 「ゆっ!あかちゃんうまれるよっ!」 ようやく出産のときがやってきた。 口を開けたままの赤ゆっくりが揺れ始めている。 男は読んでいた本を床に置き、その光景を楽しそうに眺めた。 一段と揺れが大きくなったかと思うと、ぽとりと1匹の赤ちゃんが床に落ちた。 長女となったのは赤れいむだ。 「ゆっ・・・!」 声をかけようとして親れいむは口を閉じた。 赤ちゃんの第一声を待とうと思ったからだ。 だが、いくら待っても赤れいむは声を上げない。 口を大きく開いているが、そこから出てくるものはなかった。 「ゆっ・・・?がんばってね!!」 生れ落ちた感動に喜んでいた赤れいむの顔は、徐々に暗く落ち込んでいく。 懸命に体を揺すったり飛び跳ねている様子から、声を出そうと努力していることが見て取れる。 静かな部屋に、赤れいむの跳ねる音だけが空しく響いた。 「おちびちゃん!ゆっくりがんばってね!!がんばってね!!」 「・・・」 飛び跳ねるのを止め、親れいむを見上げる赤れいむ。 その目には、涙が溜まっていた。 「お゙ねがいだよぉおぉおおっ!! おかあざんとお゙しゃべりしよゔよぉお゙おお゙ぉぉ゙ぉぉ!!!」 涙のダムは、その言葉をきっかけに崩壊した。 何本もの涙の線が、赤れいむの顔に浮かぶ。 「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってねっ!!!ゆっぐりじでいっでねええぇえっ!!!」 「・・・」 お手本を聞かせようと、親れいむは定番のセリフを壊れたカセットテープのように繰り返す。 親の期待にこたえたいのか、再び赤れいむは体をねじったり、飛び跳ねたりを繰り返した。 そのやり取りを見ていた男は笑みを浮かべていた。 ゆっくり達のアイデンティティーともいえるセリフ「ゆっくりしていってね」は、男によって赤れいむから永遠に奪われているのだ。 それも知らずに無駄な努力を続ける親子を見ていると、笑いがとまらない。 「ゆっ!?またうまれるよ!こんどはげんきなあかちゃんがほしいよっ!」 「・・・」 茎に違和感を覚えたのか、親れいむは茎を見上げた。 間接的にではあるが「元気でない赤ちゃん」の烙印を押された赤れいむは、恨めしい顔をして親れいむを見ていた。 ふらふらと揺れる赤まりさ。 それは最初に口を潰された赤ちゃんであった。 「ゆゆぅ!がんばってね!!ゆっくりうまれてね!!!」 赤まりさはゆっくりするはずもなく、すぐに茎から離れた。 赤れいむのすぐ横に落ちた赤まりさ。 まだ目も開けていなかったが、親れいむは待ちきれないとばかりに声を荒げる。 「ゆっくりしていってね!あかちゃんっ!!ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってねっ!!」 今度の赤ちゃんは、ちゃんとおしゃべりができるはず。 親れいむの願いが声のボリュームを引き上げる。 「ゆっくり!!ゆっ!!!ゆっぐりじでねっ!!!ゆっぐりいいいいい!!!!」 とても赤ちゃんを迎える表情ではなかった。 赤まりさが最初に見た親の顔は、般若のごとく歪んだ表情であった。 「・・・」 驚いたが、声は出なかった。 口内はウェルダンを通り越して丸コゲなのだ。 赤まりさは体を起こし、声を出そうと体をひねった。 「ゆっ・・・!?こっちのおちびちゃんもなのぉおお!?」 その動きに、長女の赤れいむと同じものを感じる親れいむ。 しばらくすると、赤まりさは飛び跳ね始め、そして泣き出してしまった。 やっぱりこの子もおしゃべりができない子なんだ、親れいむはその事実を認めざるを得なかった。 「で、でもつぎのあかちゃんはきっとゆっくりできるよ!!」 茎を見上げる親れいむの目は、希望と不安が入り混じった色をしていた。 焼かれた時点でこの結果は決まっていた。 結局、生まれ落ちた赤ちゃんゆっくり9匹は、1匹として第一声をあげることがなかった。 「どぼじでぇ・・・・どぼじでなのぉお・・・!?」 9匹の赤ちゃんを前に、オロオロと対処に困っている親れいむ。 それを黙って見つめる9匹の赤ゆっくりも神妙な面持ちだ。 「ゆっくちさせて」「ゆっくちちたいよ!」「おかーしゃんとすりすりしたい!」などと一部の人間が聞いたら有頂天になるようなフレーズを言うものはいない。 中には涙を流している赤ゆっくりもいるが、口が笑っている状態のため、あまり可哀想に見えない。 「ゆっ・・・!」 親れいむは思う。 喋れなくても、自分とまりさの大切な赤ちゃんなのだと。 少し生活に困るかもしれないが、自分が守ってあげればきっと元気な、ゆっくりした子に育ってくれるはずだ。 この子達にとって、ただ一人のお母さんなのは自分。 亡きまりさが守ってくれた赤ちゃん。 自分を守ってくれた親まりさのようになるんだ。 親れいむは赤ちゃん達を正面から受け止める決心をした。 「みんな、ゆっくりしていってね!!!」 力強さを感じる親れいむの「ゆっくりしていってね」。 赤ゆっくりから不安が消えた。 このお母さんならゆっくりさせてくれる、そう感じるほど頼りがいのある声であった。 「それじゃあゆっくりごはんをたべようね!」 まずは赤ちゃんの旺盛な食欲を満たそうと考えたのだろう。 親れいむは水に濡れた犬のように体を揺すり、頭に生えた茎を落とした。 「ゆっくりたべてね!」 満面の笑みで親れいむは子供達を見守る。 赤ゆっくりの目も笑っていた。 幸せな家族のワンシーン、そうなるはずだった。 「ゆ・・・?ゆっくりたべてね?」 茎の周りに9匹の赤ゆっくりが群がっているのだが、1匹として食べる気配がなかった。 顔を近づけ、口に含むような動きをするが、それから先へは続かない。 口内は硬くて動かない、そして喉もないので飲み込めない。 男だけが赤ゆっくりの不思議な行動の理由を知っていた。 「ゆっ!わかったよ!」 何を思いついたのか、親れいむは赤ゆっくり達の間に押し入り、茎にかじりついた。 むーしゃむーしゃと言いながら、茎を咀嚼する親れいむ。 横取りされるのではないかと、不安な表情で9匹が見守っている。 「まずはおちびちゃんからだよ!」 一番近くにいた赤れいむに、親れいむは口を近づける。 そして、開きっぱなしの赤れいむの口に、噛み砕いて唾液まみれになった茎を流し込んだ。 「かたくてたべられなかったんだね!!でもゆっくりりかいしたよ!!」 記憶をたどり、自分が赤ちゃんであったときのことを親れいむは思い出していたのだ。 ご飯が食べられなかった自分におかあさんが、噛み砕いたご飯を食べさせてくれたことを。 口移しを終え、親れいむは達成感にあふれる顔になった。 「ゆっくりたべてね!むーしゃむーしゃだよ!」 だが赤れいむはそれに答えず、固まっていた。 開いた口には噛み砕かれた茎がそのまま残っている。 「むーしゃむーしゃだよ!!!ゆっくりりかいしてね!!むーしゃむーしゃだよっ!!!」 自分はできたこと。 それなのに、なぜ自分の赤ちゃんはできないのだろう。 親れいむの中に不安が広がり、声が荒くなっていく。 それを敏感に察知した赤れいむは、必死で飲み込もうと努力をした。 だが、開いてない喉にご飯は通せない。 しばらくすると、動くことをやめて親れいむを見つめ始めた。 助けてくれると信じて。 「・・・」 「どうじでぇ・・・?ごはんをたべないとゆっぐり゙できないのにぃいい・・・・」 他の赤ゆっくりにご飯を食べさせようとしたが、結果は変わらなかった。 途方に暮れた親れいむは、男に頼ることにした。 「おにいざん・・・・あかちゃんにごはんをたべさせてあげて・・・」 親れいむの顔はどことなく歪んで見えた。 涙で皮がふやけたのかもしれない。 「無理だな。赤ちゃんの世話はお母さんのお前が一番上手に決まってる」 「ゆぅ・・・そうだよね・・・ごめんね・・・」 「そんなお前が赤ちゃんにご飯を食べさせられないなんて」 「ゆゆ・・・」 「お前が無能なせいで赤ちゃん達はゆっくりできないんだよ。ダメな親を持って残念だったね、そこの赤ちゃん達」 男が言い終えると、赤ゆっくり達はうつむいていた顔を上げた。 その顔に涙は無い。 あるのは怒りの表情。 口は笑っているが、その目は鋭く、眉は45度を保っていた。 「ゆっ・・・?どうしたのおちびちゃんたち・・・?」 最初に飛び掛ったのは赤まりさだ。 プチトマトほどの赤まりさが、バスケットボールほどもある親れいむの頬にタックルを仕掛ける。 「ゆ!?」 特に反撃をしたわけでもない。 体格差から、親れいむは赤まりさを弾き飛ばしていた。 「どうしたの!?ゆっくりやめてね!!」 その赤まりさを引き金に、次々と赤ゆっくり達が親れいむに体当たりを始める。 無言で飛んでくる弾丸プチトマト。 顔には怒りと憎しみだけが写し出されていた。 「やめてねっ!!おかあさんだよ!?ゆっくりやめてね!!」 親れいむはケガをするどころか、痛みすら感じなかった。 質量も速度もない赤ちゃんゆっくりの体当たりには、攻撃のコの字すら感じられない。 しかし、親れいむはその衝撃を通じて赤ゆっくり達の声を聞いた。 『おまえのせいでゆっくりできない』『やくたたず』『それでもおやか』『ゆっくりしね』 『ゆっくりさせろ』『まりさがくるしいのはおまえのせいだ』『れいむはゆっくりしたいのに』 『おねがいだからゆっくりさせてよ』『もっとゆっくりできるおかあさんがほしかった』 無論、それは親れいむの餡子内で勝手に想像した言葉にすぎない。 だが赤ゆっくり達が訴えたい内容としては、正しいものだろう。 本来であれば、そっちの人たちが天にも昇るようなセリフで親を罵っているはず。 一言も喋ることなく体当たりを繰り返す赤ゆっくり達の姿は、実に新鮮だ。 先ほど弾かれた赤まりさは、ころころと床で数回転がると、すぐに立ち直った。 そして再び眉を引き締め、親れいむの元へ跳ね寄る。 今度は顎のあたりを目掛けて体当たりを繰り出し、また弾き飛ばされた。 赤まりさは言葉を発することなく、延々と同じような動作を繰り返した。 その異常な光景に、男は声を立てて笑い始めた。 親れいむが男を一瞬だけ睨んだが、すぐに赤ゆっくり達に向き直る。 「もうやべでえええ!!!ゆっぐりじでよぉおおおっ!!!」 壁に追いやられた親れいむが叫んだ。 相手は弱っている、と勘違いした赤ゆっくり達がさらに体当たりを加え始める。 赤ゆっくり達の体には、かすり傷ができていた。 親れいむにぶつかった時や、床を転がるときにできたのだ。 体当たりをする度に増え、見ていて痛々しいのだがそれでも懸命に赤ゆっくり達は立ち上がる。 それを見て、親れいむの心が痛む。 傷だらけになってまで自分を殺そうとする赤ゆっくり達に、体は痛まないが心が痛む。 ゆっくりさせてあげると誓った赤ゆっくりが、ゆっくりすることなく自分に立ち向かう。 なぜこんなことになってしまったのだろう。 親れいむは嗚咽をこぼし、涙を流す。 それが赤ゆっくりを調子付けているとも知らずに。 「赤ちゃん達、ちょっといいかな」 猛攻を止めたのは、暢気に鑑賞していた男。 何かを期待しているのか、赤ゆっくり達の目が輝いている。 「君達、ご飯食べられないんだよね」 9匹が目線を床に移した。 親れいむだけは男の目を見たままだ。 「あんまり運動すると、おなかすいて死んじゃうよ」 「ゆっ!!」 親れいむは思わず声を漏らしてしまった。 ご飯を食べないと餓死してしまう。 そんなことにまで頭が回っていなかったのだ。 「ちびちゃんたち!うごいちゃだめだよ!!おなかがすいてしんじゃうよっ!」 その言葉に、赤ゆっくり達は顔を青くした。 もうすでに空腹感があるのだろう、迫りくる死をゆっくり理解したようだ。 「ゆぅぅううぁぁああ!!!どうじだらいいのぉおぉ!!??」 慌てふためく親れいむとは裏腹に、赤ゆっくり達は静かに瞳から雫をこぼした。 「泣いてると、喉が渇いて死んじゃうよ」 そもそも、喉が渇くどころかコゲている。 男の言うことがわかるのか、赤ゆっくり達は顔に力を入れて涙を止めようとした。 「はやくじないどあかちゃんがゆっぐりでぎなくなっぢゃうよぉおぉ!!!」 生まれたときからゆっくりしていない、男はそんな感想を持った。 8時間が経った。 男はその間、一切口を挟むことはなかった。 死のゴールが見えているゆっくり達をいじる、そんな無粋なマネはしない。 最期の時まで生暖かく、助かる道を探す親れいむを見守るのだ。 そんな道など存在はしないが。 「ああぁぁ・・・おちびちゃん・・・ごめんねぇええ・・・・」 今、1匹の赤ゆっくりが目を閉じた。 通算8匹目。れいむ種では最後の1匹となる。 あれから、赤ゆっくり達は何もしなかった。 忍び寄る餓死の足音におびえながら、目の前にいる親れいむを恨む事でなんとか正気を保っていたのだ。 憎しみに染まった8の瞳が、親れいむをずっと捉えていた。 赤ゆっくりは総じて体力が少ない。 小さな体では、体力となる餡子があまり確保できないからだ。 旺盛な食欲は、生きるための本能である。 親れいむへの攻撃と、それによって負った傷は予想以上に赤ゆっくりから体力を奪っていた。 7時間を越えた辺りで最初の1匹、赤まりさが永遠にゆっくりした。 それから先は早く、赤ゆっくりは次々と瞳を閉じた。 動かなくなった赤ゆっくりは、ほとんど皮だけの状態になっていた。 最後まで親れいむを睨み続けていた目の周囲や眉間に、深いシワが残っている。 「がわいいれいむがぁあ・・・!おめめをあげでねぇえ!!れいむ゙をにら゙んでもい゙いがらぁ・・・おね゙がいだよお・・・・」 れいむれいむと泣き叫ぶ親れいむを、最後に残った赤まりさが真っ赤になった目で睨みつける。 赤まりさの体はほとんど皮だけになっており、あちこちにシワが走っていた。 もう長くないはずだ。 そう思っていた男、そして親れいむも赤まりさの次の行動に驚く。 「・・・・ゆ゙っ!?」 たるんだ皮を引きずり、赤まりさは親れいむに近寄っていく。 その目に光はない。 幼くして死を受け入れた目。だが、その奥には黒く歪んだ感情が潜んでいた。 「まりざぁ・・・!ゆっぐりしようねっ!おがあじゃんがすりすりじであげるがらねっ!!」 隠された激情に気がつかない親れいむ。 最期の時を親である自分と過ごそうと思っている、そう勘違いした。 「ゆ゙!おがざんと・・・いっじょにゆっぐりじようねっ!!」 だから、親れいむは笑顔を作った。 赤まりさをゆっくりさせてあげたい。 切なる願いだった。 「・・・・ゆ?」 体に感じた、小さな衝撃。 それは、赤まりさの最期の体当たりだった。 「ゆ゙ぁあ゙ああ゙あぁ゙ぁあ゙っ!!!!」 弾けとんだ赤まりさは、床に落ちて絶命した。 仰向けに倒れたままだ。 「あ゙りざあぁあぁぁあ゙あ!!!どぼじでえ゙ええ゙ええ゙っ!?!?!?」 他の赤ゆっくりと違い、赤まりさの目は開いたままだった。 完全に光を失いながらも、その瞳は親れいむを睨みつけていた。 「あ゙ぁああ゙ああ゙ぁあああ゙ああ゙あ゙あ!!!!!!ごべんねええ゙ぇえ゙ええ゙っ!!!ごべんねぇええ゙え゙!!!おがあ゙ざんをみらいでえぇえ゙え!!!」 狂ったように嘆き叫ぶ親れいむを置いて、男は部屋を後にした。 「ぁあ゙あ゙・・・・あ゙ああ゙あぁ゙あ゙あ゙ぁぁ・・・」 外へ通じる扉を開け放したまま。 しばらくして男が部屋に戻ると、そこに親れいむの姿は無かった。 床には赤ちゃんゆっくりの死骸も見当たらない。 食べたのか持ち帰ったのか、男にはもう興味のないことであった。 それから数日後、農家の男性が1匹のゆっくり霊夢を発見した。 どうやら洞窟の中で赤ちゃんを育てているようだった。 男性は、そのれいむがエサを探しに行っている間に赤ちゃんを捕獲ようと、洞窟に入った。 だが中にいたのは、真っ黒になって腐っていた9匹の赤ちゃんゆっくりであった。 帽子やリボンがあったので、かろうじて赤ゆっくりだと判断できた。 不気味に思い、洞窟を離れたところで親のれいむが帰ってきた。 様子を伺っていると、洞窟の中かられいむの歌が聞こえたり、赤ちゃんにご飯を食べるよう促す声が聞こえてくる。 男性は気味が悪くなり、その場から逃げたのであった。 それからさらに数日後。 男は書斎で、一冊の本を手に取った。 「お、また来てる」 文庫本ほどの大きさ。 今もこの世界や別の世界で、ゆっくり達が虐待されている。 その様子を自動で小説に変換し、ページを増やす、魔法の本。 男はこの本に影響されて、ゆっくり霊夢を虐待することに決めたのだ。 本に登場する赤ちゃんゆっくりは、大抵我侭で口が悪く、生意気で浅ましい。 男の経験でもそれは正しかった。 親を親とも思わないものばかりだ。 そんな物語を読んでいた男は、赤ゆっくりをゆっくりさせることなくその命を散らせてやろうと思ったのだ。 まったく関係のない親れいむにとってはいい迷惑である。 「・・・これ、俺じゃん」 新しいページには、赤ちゃんゆっくりの口を焼く男の話が載っていた。 どう読んでも自分のことである。 「あー、新作まだかなー」 男は本を棚に戻すと、たまった鬱憤を晴らすため、今日も森へと足を運んだ。 作:アルコールランプ このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/662.html
前 「ん、あの目潰しれいむはどうしたの?」 ショーに遅れて登場したのはタケだ。 手にはタケの顔より一回り大きい壺がある。 「子供が食べちゃったんだよ」 「すげー勢いで食ってたぞ。もっと早く戻ってくれば見られたのに」 同属食いというものは、少年達の好奇心を刺激するものだ。 そこら辺の虫、トンボやカエルでは見ることができない。 それを見逃したタケは、酷く残念そうな顔をした。 「見たかったなあ・・・」 しかし、少年の好奇心が留まることはない。 タケの頭の中には次の興味が芽生えていた。 「次は俺がやるからな!」 ゆっくりの数には限りがあるため、好き勝手に殺すことは許されない。 しかし、共食いを見られなかったタケを哀れに思った2人はタケの行動を許容した。 「一度やって見たかったんだよねー」 タケはそう言って、農道に6匹の赤まりさを置いた。 さきほど親れいむからこっそり抜き取っておいた6匹だ。 「ゆっ!?れいむの赤ちゃんがみんな生まれてるよ!?」 今頃になって親れいむは残った赤ゆっくりが無事誕生していたことに気が付いた。 それに気が付いた子ゆっくり7匹も、食い殺した赤れいむのことなど忘れて近寄ってくる。 「ゆー!ゆっくち!おかあさん、おねーちゃん、ゆっくちしていってね!」 「ゆっくちだよ!ゆっくちー!」 「いつもおはなしをきかせてくれたおねーちゃん、ゆっくちありがとう!」 「これからいっしょにゆっくちしようね!!」 もう目も開き、言葉も喋っていた。 第一声は聞けなかったものの、無事誕生したことに2匹の親ゆっくりと7匹の子ゆっくりは満足だった。 「「「「「「「「「みんなでゆっくりしようね!!!」」」」」」」」」 嬉しくなった1匹の赤まりさが、親れいむに飛び跳ねようとした。 しかしそれは空中で掴まれて邪魔される。 タケの手だった。 「ゆ!?なにするの!?ゆっくちやめてね!!おかーさんとすりすりするんだよ!!!」 掴まれた赤まりさは、そのまま6匹の赤まりさの元に戻された。 そして急に6匹の周りが暗くなる。 「ゆっ?」 声を上げたときには、既に赤まりさ達を暗闇が包んでいた。 まだ暗くなるはずはない、生まれたばかりの赤まりさでもその異常性に気が付いた。 「ゆ!くらいよ!!こわいよ!」 「まっくらだよ!!なにも見えないよ!!!」 「おにいさん!まりさたちのいもうとをはやくだしてあげてね!!」 「いまならゆっくりゆるしてあげるよ!!」 「れいむたちのいもうとがこわがってるよ!!はやくだしてね!!」 外にいた親ゆっくりと子ゆっくりには状況がすぐに理解できる。 6匹の赤まりさは、逆さにした壺の中に閉じ込められてしまったのだ。 その壺を椅子のようにしてタケが座っている。 騒ぐゆっくりの声など、タケには虫の鳴き声程度にしか感じていない。 「そしてコイツの出番だ!」 道具袋から出てきたのは、マッチとカラフルな箱。 この箱は寺子屋近くの駄菓子屋で売っている爆竹の箱だ。 「子供だけで花火やったらダメだよ」 「タケちゃん、マッチ持ってるんだ。不良だなあー」 「みんなには内緒な!コウちゃんとシンちゃんはゆっくりが壺に近寄らないように押さえてて」 壺に必死に体当たりをする親れいむと7匹の子ゆっくりを蹴飛ばしたり投げ飛ばしたりして遠ざける。 親まりさは相変わらず激しい達磨運動をしていた。 その間にタケは爆竹の導火線を全て絡ませ、一本の太い導火線にした。 「何をするの!!?赤ちゃん達を早くゆっくりさせてあげてね!!!」 顔に泥をつけながら、親れいむが訴える。 「そろそろ火をつけるから、邪魔が入らないように頼んだよ」 タケが2人に合図すると、マッチに火をつけた。 「ゆっ!!!」 小さな棒に燃え上がる炎。 火を見て一気に危機感が増したのだろう、親れいむが物凄い勢いで壺に向かって突進を始めた。 子ゆっくりは火を見ておびえている。 「あらよっと」 シンが飛び込んでくる親れいむを見事に蹴り飛ばした。 相当な衝撃だったようで、親れいむがうめき声を上げながらのた打ち回る。 そうこうしている間に、ついにマッチの火は導火線へと領土を広げた。 「いくよっ!」 タケは壺を少しだけ持ち上げ、中に火のついた爆竹を放り込み、すぐに壺を閉じた。 「ゆっ!おかあさ」 親れいむは一瞬だけ持ち上げられた壺の中に、困惑する12の瞳を見た。 「あかちゃ・・・」 声を掛け終わらないうちに、壺の中からくぐもった炸裂音が響き始めた。 それと同時に、赤まりさの絹を裂くような悲鳴も。 「ゆきぃぃぃっ!!!」 「いちゃいいいいぃぃぃぃっ!!!!」 「みえないよっ!!!くらいよっ!!!いたいよおおお!!!!」 しかしそんな悲鳴も3秒もしないうちに消えてなくなった。 残ったのは無情に響き続ける炸裂音。 箱一つ分の爆竹は案外多かったようで、30秒近くも鳴り響いた。 「お、爆竹終了だな」 また壺の上に座っていたタケが、音のしなくなった壺から降りた。 壺の周りには親れいむと7匹の子ゆっくりも集まっている。 しかし、1匹として体当たりで壺を倒そうとはしなかった。 怖かったのだ。中を見ることが。 「じゃあ、見てみよう!」 「はやく開けてよ!」 興味津々、目に星を入れたコウとシンがタケをせかす。 「ではごらんくださーい!」 タケは壺を真上に持ち上げた。 白く薄い煙が溢れ、地面に爆竹の残骸が見える。 しかし、赤まりさは1匹もいなかった。 「あれ・・?」 「いなくなってるよ?」 「そんなばかな」 親れいむは、爆竹を放り込んだときに素早く逃げたのでは、との淡い期待を寄せた。 子ゆっくりも同じことを考えた。 「おおおおおおっ!!!!」 タケがいきなりあげた声に、ゆっくりのみならず他の少年も驚いた。 「どうした!?」 「びっくりさせるなあ」 壺の中を見ているタケは、驚愕の表情を2人に向けた。 「これ見てみ!爆竹すげええ!!」 タケは壺の中を2人に向けた。 「おおおおっ!!!!」 「爆竹強えええええっ!!!!」 壺の中は、バラバラになった皮、飛び散った餡子、吹き飛んだ帽子がこびりついていた。 ところどころ原型をとどめている部分があり、赤まりさが死んだことと、爆竹の威力がよく分かる。 「爆竹って意外と威力あるもんなんだね!」 ゆっくりの頭上で壺を見せているため、親れいむ達には見えない。 自分のあずかり知らぬところで大切な赤ちゃんがどうなっているのか、親れいむは気が気でない。 「壺の中をれいむにも見せてね!!ゆっくり見せてね!!!」 タケは壺を正常な置き方、クチを上にした状態で地面に置いた。 これではゆっくり達に見えない。 「見せたら面白そうじゃん」 言うが早いか、シンが集まっていた子ゆっくりを掴み、壺の中へと放り込んだ。 最初に壺に入ったのは子れいむ。 なんだか甘い臭いのする壺だ、そんなノンキなことを子れいむは最初思った。 しかし、自分の足元にある皮を見た瞬間に血の気が引く。 それはさっきまで、自分を姉と慕ってくれた赤まりさの目が付いた皮だったのだ。 「ゆっぎゅあああああああ!!!!!!まりざがぁああっ!!!げいぶのいぼおどがぁああああ!!!!」 壺の中から聞こえる姉妹の声に、警戒を強める子ゆっくり。 親れいむは赤まりさがどうなったのかそれで全てを理解した。 だとすれば自分にできることは。 「こどもたち!!はやく逃げてねっ!!!捕まらないように逃げてね!!!!」 これ以上子供を死なせてはならない。 親れいむは少年達を食い止めようと必死で体当たりを再開する。 しかし多勢に無勢。1匹の親れいむと3人の少年ではどちらが勝つかなど明らかだ。 次々に摘み上げられ、子ゆっくり達は壺の中へと捨てられる。 「ゆっ!まりさはたすけて!!こっちのれいむをつかまえてねっ!!」 壺の外に残った子ゆっくりは2匹。 自身への危害が及ぶことを恐れた子まりさは子れいむに体当たりをし、少年たちのほうへと突き出した。 「どぼじでえええ!!!??まりざああああ!!!」 「どうじでうらぎるのおおおお!?!?」 「ゆっ!うるさいよ!かわいいまりさはにげるよ!」 子れいむと親れいむの嘆きをあざ笑うかのように、子まりさはゆっくりらしからぬ速度で乾いた田んぼを跳ねていく。 「あれ、誰が当てられるか勝負しよう」 最後の子れいむを壺に捨てたコウが、田んぼに転がる拳ほどの大きさの、乾いた土の塊を手にとって言う。 子まりさとの距離は10メートルほど。 シンとタケも同じように土の塊を手に取った。 「ゆゆっ!ゆっくりできない かぞくとは さよならだよ!まりさはゆっくりするよ!ゆっくりしんでね!」 この子まりさは一度、一人で外を出歩いていたときに人間を見たことがあった。 そのとき捕まっていたゆっくり霊夢の家族は、草むらに隠れた子まりさの前で目を背けたくなるような虐待を受けたあと1匹残らず殺された。 それを救出しようと10匹近くの成体ゆっくりが人間に襲い掛かったが、まるで歯が立たなかった。 たった1人の人間に、その群れは壊滅状態に追いやられてしまったのだ。 子まりさはあの3人の少年達が巣穴に来たとき、一番警戒していた。 しかし少年達はあの虐待をしていたお兄さんより小さかったし、なにより美味しいお菓子があると聞いては黙っていられなかった。 だがその判断は誤りだった。 やはり人間は危険だ。 それは年齢に関わるものではない。 子まりさはこの経験を深く餡子に刻んだ。 もうあの家族は助からない、ならば全てを捨ててでも逃げることが一番だ。 この田んぼを抜けたところにある川の先には、ゆっくりアリスの群れがいる。 そこまで逃げれば、きっと受け入れてくれる。 親友のゆっくりアリスもそこにいるから、きっとゆっくりできるはず。 そんな幸せ回路が蠢く子まりさの上空を、大きな塊が飛んでいた。 「ゆっ!?」 目の前に落下した土の塊は、子まりさの体ほどもある。 「くっそ!はずした!」 子まりさが振り返ると、そこには残念そうな顔をするコウがいた。 続けて少年2人が子まりさ目掛けて土の塊を投げつける。 「ゆ!やめて!まりさをいじめないでちかくにいるやつをいじめてね!!」 足場の悪い乾いた田んぼを必死で逃げる子まりさ、その横で飛んできた土の塊が砕ける。 それはまるで戦場のようだ。 少年大砲の照準をずらすため左右に跳ねながら逃げる子まりさに、少年達は苦戦する。 「ちょこまか動いてて当たんねー!!」 「ぜってー当ててやる!!」 少年達は逃げる子まりさに向かって走り始めた。 あまり遠くに逃げられると、投げた土の塊が届かなくなるからだ。 次々と飛んでくる土の塊、そして近づいてくる少年達に、子まりさは餡子が冷えるような思いだ。 これが当たったら間違いなく皮は破れるだろう。 「ひゅっ!!!ひゅっ!!!ひゅっ!!!ふひゅううううぅっぅう!!!こわいよおぉぉおっ!!」 あと少しで田んぼから抜け出せる。 そこまで逃げれば他に遊ぶゆっくりがいるのだから、自分のことなど追いかけてこないはずだ。 子まりさはそれだけを頼りに、皮が破れそうなくらい力強く大地を蹴る。 「ゆっ!あとすこしだよっ!!」 あと数跳ねといったところで、子まりさの右半身を強い衝撃が駆け抜けた。 「ゆぐうぃぃいっ!!!」 子まりさの目は近づいてくる地面だけを捉えていた。 倒れている。 あと少しで逃げられるのに。 「おっしゃ!右側に当たったぞ!!」 シンが飛び跳ねて喜んでいる。 動けなくなった左半分の子まりさに少年達が近づく。 「お、まだ生きてる」 「そりゃそうだよ。トンボだって頭吹き飛ばしても少しは生きてるじゃん」 「なるへそ」 少年達は、まるで野グソをつつくかのように飛び出した子まりさの餡子を枝でつついた。 つつかれるたびに子まりさには激痛が伝わり、声にならない悲鳴をあげる。 右半分がなくなった饅頭は、息も絶え絶えでいつ死んでもおかしくないようだったが、それでもまだ生きる望みを捨ててはいなかった。 「おぉっおお、おにいざんぁ・・・!!あ、ありざがわいいよぉ・?だ・・だっだ・・だだがらだずげでぐだざい・・・」 まりさ種は生への執着が尋常でない、と近所のお兄さんに教えてもらったことがあった。 この状況を見て、3人の少年はそのことを思い出す。 餡子をこぼさないよう気をつけて、コウは子まりさを持ち上げた。 「ん?コウちゃん、どうするのそれ?さっさと潰しちゃえば?」 「何にするの?」 「びっぶぉ・・!だ、だずげでぐれでありがどう・・・!」 何を勘違いしたのか、お礼を言い始めた左半分まりさを壺の置かれた場所に運ぶ。 コウは壺を覗いた。 「ゆっぎゅうう!!せまいよっ!!!つぶれちゃうよ!!!」 大きな壺でも6匹も子ゆっくりが入っていては窮屈だ。 最初のほうに入れられた子ゆっくりは、後から入れられた子ゆっくりに踏みつけられる形になっており、ドラ焼きのような形になっていた。 その中の一番上にいた子れいむをコウは取り出した。 「おまえ、さっきコイツに体当たりされたヤツか?」 コイツ、といって指を刺した先には左半分しかない子まりさがいる。 普通だったら姉妹の無残な姿に泣き叫ぶところだが、自分を裏切った上に罵倒までしたヤツだったため怒りしか湧かない。 「そうだよ!こいつがれいむをうらぎったんだよ!!ぷんぷん!!」 コウの手の上で、頭から湯気がのぼりそうなほど怒る子れいむ。 「ぞ・・・ぞんばごどいばないで・・・かぞくだのに・・・」 その家族を犠牲にして逃げたのはどこの誰だったのか。 コウは憤慨する子れいむを、子まりさの隣にそっと置いた。 「うらぎりものは かぞくじゃないよ!!ゆっくりしね!!」 「やめてね!れいむもまりさもれいむの子供だよ!!家族だよっ!」 親れいむが言い終える前に、子まりさは子れいむに踏み潰された。 子れいむの下で餡子を飛び散らせた子まりさがかすかに痙攣していた。 だが痙攣も、だんだんとゆっくりしていき、動かなくなる。 「ゆやあぁあああああ!!!!れいぶのごどもがあああああああっ!!!!」 親れいむが駆け寄るが、そこには甘い香りが漂うだけ。 「ゆっ!うらぎりものはしんだよ!これでゆっくりできるね!!」 もう死んでいる子まりさを何度も踏みつける子れいむは、とてもすっきりした顔をしていた。 子れいむが跳ねるたびに子まりさの餡子が飛び散る。 「どぼじでまりざをおおおおお!!!!!」 すっかり存在を忘れられていた親まりさも、なんとか方向修正を終えたようで、子れいむの方を向いていた。 だがシンに、正反対の方向を向けられてしまう。 「同属殺しはお仕置きだ!」 タケが子れいむを掴み、柔らかい土の上に移動する。 「や!やめてね!!!はなしてね!!!」 子れいむは、お仕置きという言葉に顔を恐怖で染めた。 親ゆっくりも同様だ。 また子供が殺されてしまうことを恐れている。 タケは足で土をえぐり、子ゆっくり2匹分の深さの穴を作った。 「ゆっくりの冬眠だ!」 その穴に子ゆっくりを押し込み、素早く土を被せる。 「ゆびっ!やべで!」 「やめてね!!れいむたちは冬眠はしないよ!!!」 「まりさたちは冬はゆっくりすごすんだよ!!クマさんみたいにはねむらないよ!!!」 親の願いも虚しく、子れいむは生き埋めにされた。 埋まった部分からは、かすかにゆーゆーという声が聞こえる。 「ゆっ!!!まっててね!!!ゆっくり助けるよ!!!」 親れいむが土を掘ろうと近づくが、タケに捕まり、親まりさのように底部縄縛りをされてしまった。 「黙ってみててね」 子れいむの埋まった場所のすぐ横に親れいむを置く。 土に入れられてから1分。 5分。 10分。 土の中から聞こえる子れいむの声は、ゆっくりと小さくなっていった。 「れいむのごどもをだじであげでえええええ!!!!」 親れいむの大声とは対照的に、もう土の中から子れいむの声は聞こえなくなった。 「死んだか?ちょっと出してみよう」 コウが土を掘り返すと、汚いリボンをつけた子れいむが出てきた。 枝でつつくが、反応はない。 「死んだか」 シンがそういった次の瞬間だった。 「ゆ!ゆげっ!!ゆげ!!!ゆっ、ゆっくりするよ!!!」 口から土を吐き出し、子れいむが蘇生した。 「よかったよ!れいむのこどもは元気だよ!!!」 穴から急いで逃げようとする子れいむをタケがつまみ、また穴に戻して土をかけ始める。 「ゆぎっ!もうやだ!!くらいのやだよっ!!!」 「やめてね!!!もう許してあげてね!!」 「すげーな。まだ生きてたよ。どんくらい埋めたら死ぬのかやってみよう」 再び暗い土の中に幽閉された子れいむの声が、地表に届く。 「ゆー!ゆー!」 しかし、今度は誰もその声を聞いていなかった。 生き埋めに飽きたシンが、次の子れいむと子まりさを手に取っていたのだ。 「ゆっ、ゆっくりしようねっ?おにいさん、ゆっくりしてね!」 「ま、まりさはかわいいよ!いっしょにゆっくりしようね!」 人間の力に勝つ術はないと判断したのか、必死で媚を売り始めた2匹。 親ゆっくりよりも状況判断はできるようだ。 「シンちゃん、何する気?」 「まあ見てろって」 シンの左手に子れいむ、右手に子まりさが乗っている。 「おい、おまえこのれいむのこと好きか?」 右手の子まりさにシンが尋ねた。 「ゆっ!れいむはかぞくだよ!だいすきだよ!」 その答えを確認し、今度は左手の子れいむに同じ質問をする。 「おまえ、こっちのまりさは好きか?」 「ゆゆっ!まりさはかぞくだから すきだよ!!ゆっくりしたかぞくだよ!!」 にやりと顔を歪ませたシンはそのまま両手を近づけ、子れいむの頬と子まりさの頬を押し付けた。 「ゆぎっ!」 「ゆぎゅっ!つぶれちゃうよ!!」 「そんなに仲良しなら、もっと仲良くなれや」 タワシを擦るように、子ゆっくり同士の頬をすり始めるシン。 「ゆべべべべべっ!!!」 「いたい!ほっぺがきれちゃう!!!」 まだ頬が乾いているせいか、2匹は激痛に襲われた。 親愛の証の頬擦りが、今はただの苦痛となっている。 しかし30秒もすると、2匹の頬には粘着性のある体液が溢れ、それが潤滑油となり痛みはなくなった。 「ゆふっ!もういたくないよ!」 「ゆほぅっ!それになんだかすごくゆっくりできるよ!」 子ゆっくりはこれが交尾なのだと気が付いていないようだ。 「だめだよ!!すっきりしたらゆっくりできなくなるよっ!!!」 子ゆっくりはまだ成体ではない。 このまますっきりすると黒く朽ちて死んでしまうことを親れいむは知っていた。 「ゆっふぅ~ん?ゆっゆっゆっ。れーむはゆっくりしてるよぉ~?」 「ゆひぃゆひっ!すごくゆっくりだよぉ!」 焦点の定まらない目で親れいむに答える子ゆっくり。 それを見て、シンはこするスピードを上げる。 「ゆっ!なんだか!すごく!ゆっくり!?」 「ゆゆっ!!すっきり!?すっきりしそうだよ!!!」 「ばめだよおおおおぉぉぉっ!!!!ずっぎりじぢゃだめえええぇぇぇ!!!!」 シンがここぞとばかりにすり合わせる速度を上げると、2匹はビクンと大きく震えた。 その様子を見てシンは手の動きを止めた。 「す、すっきりー!!!」 「すっきりー!!!」 2匹は生まれて始めてのすっきりにいたく感動しているようだ。 「ゆ゙ぐぅうううっ・・・!ぞ、ぞんな゙ぁあああああぁぁぁああ・・・」 「ゆぐっ!?」 「ゆぎっ!?」 親れいむの嘆きに答えるかのように始まる変化。 子れいむ、子まりさともに黒ずみ、頭から小さな茎が生え始めた。 「あれ?なんか2匹とも生えて来たんだけど」 「本当だ。なんでだろ?」 成体ゆっくりを何度も交尾させて遊んだ少年達だが、これは始めてみる現象であった。 いつもはどちらか片方が茎を生やしていた。 両方とも生えることなど見たこともなかったし、聞いたこともなかった。 「あとでお兄さんに聞いてみようぜ」 「そうだね、あのお兄さんは何でも知ってるもんね」 「お土産に何匹か持っていってあげようよ」 ゆっくりに関しては近所のお兄さんに聞くのが一番だ。 茎を生やした子ゆっくりは、2匹とも実をつけることなく朽ち果てていた。 「あ゙ぁ゙あ゙ぁ゙あ゙っ!!!こどもがああああああっ!!!!」 黒ずみ壊れた饅頭に頬を摺り寄せようと懸命に体を起こすが、底部が使い物にならないゆっくりが動けるわけもなかった。 「あと何匹残ってる?」 言いながら、タケは壺の中を数える。 狭い壺の中で子れいむ3匹、子まりさ2匹が静かに震えていた。 「も゙、もうやべでぐだざいい!!!ゆるじでぐだざいいい!!!」 存在感が空気レベルまで低下していた親まりさが必死に謝罪を繰り返す。 一体何に謝罪をしているのか、少年達はもとより親まりさ自身も分からなかった。 「ゆっくりの帽子って何でできてるんだろ」 タケは2匹いた子まりさの内、小さいほうの帽子を取った。 「ゆっ!やめて!まりさのきれいなぼうしかえして!!!」 帽子を見てみるが、別段変わったところはない。 ゆっくりサイズだけあって小さいが、普通の帽子と同じに見える。 では、れいむのリボンはどうだろう。 タケは子れいむを手に取った。 「ゆゆゆゆっくりしようねおにいひゃんっ!」 くるりと後頭部を向ける。 リボンはきっちりと結ばれており、ほどくのは骨が折れそうだ。 「めんどいからしゃーない」 ひらひらしている部分を右手で掴み、子れいむの頬を左手で握る。 そしてそのまま勢いよく右手を引いた。 「ぴきいぃぃぃっっっ!!!!!」 リボンごと、髪の毛どころか頭皮まではがれた。 剥がれた頭頂部から中身の餡子がよく見える。 「がっぱっ!!ゆぎはぁああっ!!」 餡子が漏れないせいか、苦悶の表情を浮かべるものの、死ぬ気配はなかった。 「じゃあ餡子でも食うか」 「やべでええ!!!れいむだぢはだべものじゃないよおおおっ!!!」 指スプーンで子れいむの餡子をかき回し、子ゆっくり特有のねっとりとした上質の餡子を取り出す。 ほんのりと甘く、しつこくない後味。 年増のゆっくりのようにパサつくでもなく、ゆっくりしすぎたゆっくりのように歯が解けるほど甘くない。 「おいひー!」 「やっぱ子ゆっくりはおいしーね」 「うんめー」 ソフトボールほどの大きさの子れいむにはたっぷり餡子が入っていたが、育ち盛りの少年3人を前にみるみる減っていった。 餡子の残りが1/5ほどになった所で、コウがストップをかける。 「これ以上食うと、遊ぶ前に死ぬぞ」 「もう殺していいんじゃね?」 「まだこれ使う?」 使うとも、そういうとコウは比較的柔らかい土を手に取った。 「これ、頭に入れたら面白そうじゃん!」 餡子が残ってれば大抵死なない、といわれるゆっくりだ。 元の餡子が入っていれば、他に不純物が入っていても死なないのではないか。 コウはそう思ったのだ。 「おー、いいねそれ!」 「僕が抑えておくから、入れてみ」 シンがぷるぷる痙攣する子れいむを押さえる。 コウとタケが、食べた餡子を埋めるように、茶色い土を詰め込んでいく。 「きいぃぃきっきぃぃ!!!ゆぎぎぎいいいいいいいああああ!!!!!!」 ヨダレが溢れ、地面を黒く染める。 親れいむと親まりさが騒いでいるが、虫の鳴き声となんら変わりない。 少年達は気にせず土を詰め続けた。 「ゆぎゅううあああ!?!?!?いだいいいおおおおお!!!いだいいいいぃぃい!!!!」 土が詰め終わり、開いた頭頂部にさきほど引きちぎった頭部を貼り付ける。 応急処置だ。 内部に入った土が相当に痛いようで、いつまで経っても悲鳴がおさまらない。 親れいむの側に放置してあげても、逃げるどころか親れいむの言葉にすら応じない。 子れいむの頭は内部の土の痛みのことしか考えることができなかった。 「ま!まりさのぼうし!かえしてっ!!」 姉妹を踏み台にしたのだろう、いつの間にか帽子のない子まりさが壺から出ていた。 せっかく作った土れいむを殺されてはたまらない、コウは子まりさをつまみあげる。 「まりさのぼうし!!まりさのぼうし!!ぼうしかえしてっ!!」 両頬を中指と親指で挟まれている子まりさは、いくら声を荒げようとまったく動くことができなかった。 頬に力を入れてもまるでコウの指は動じない。 底部は宙を浮いているので跳ね上がることもできない。 「タケちゃん、とりもちか何か持ってない?」 得意げにタケは笑うと、道具袋から小さな壺をとりだし、コウに差し出した。 「じーちゃんに教えてもらった特製とりもち。指にくっつくとお風呂でよく洗わないと取れないからね」 コウは壺の蓋をとり、そこに30センチメートルほどの枝を突っ込んだ。 枝の先端、8センチメートルほどにとりもちがコーティングされる。 「そしてこれをこうだ」 そのままとりもちがついた方を、子まりさのおでこの上あたりに突き刺した。 「ゆぎっ!いだいっ!!!」 そして今度は子まりさの帽子にとりもちをたっぷりと塗る。 そのときは、専用のハケを渡されたのでそれをコウは使った。 「やめて!まりさのぼうしにへんなのをぬらないでね!!!」 とりもちを塗り終わった帽子を、ささった枝の先端に引っ掛ける。 ニンジンが吊るされた馬のような状態だ。 「ゆ!まりさのぼうし!」 目の前に帽子がある、それだけで子まりさは痛みも忘れてしまったようだ。 決して届くことのない帽子目掛けて前へ前へと跳ねる。 「どぼじで!?どぼじでどどがないのおおおおおおお!!?」 そのまま子まりさは森の奥へと消えていった。 きっと死ぬまで帽子を追いかけ続けるだろう。 「そろそろ帰るかー」 そういったのはシンだ。 残る2人も、そろそろ家に帰ろうと思っていたのか、賛成した。 「ほい、おつかれ」 シンは親まりさ、コウは親れいむの縄を開放した。 底部に縄の跡が生々しく残っているが、跳ねることには何の問題もないようで、すぐに壺に跳ね寄った。 「はやくれいむのこどもに会わせてね!!!」 「まりさのこどもを早く出してあげてね!!!」 少年達は親ゆっくりには興味を失っていた。 死んでも構わない、という気持ちのこもった蹴りが親ゆっくりを襲う。 「ゆべっ!!」 「ゆぎゆあっ!!!」 蹴飛ばされた2匹が田んぼへと落ちる。 3人の少年達は壺を覗き込みながら相談をしていた。 壺に残っているのは子れいむ2匹、子まりさ1匹だ。 「コウちゃん、どれ持ってく?」 「僕は土入りが欲しいんだけど」 「それはコウちゃんが作ったんだから、これとは別にコウちゃんに上げるよ」 ありがとう、と一言。コウはまだ苦しみの声を上げる土れいむを手に取った。 「じゃあ早いもん勝ちね!僕はこの大きいまりさ貰うよ」 タケが取ったのは、最後の1匹となった子まりさ。 この子まりさは長女だった。 隣にいる2匹の子れいむより、若干大きい。 「あっ、それ狙ってたのに・・。残りはどっちもれいむか。じゃあどっちでもいいや。はい、コウちゃん」 残った子れいむ2匹のうち、1匹をシンが抱え、1匹をコウが受取る。 「2匹ともれいむかぁ」 少し残念そうに、コウは左手に握った土れいむと右手に握った子れいむを見た。 「あげないよ!!その子達はれいむとまりさの子供だよ!!!」 「はやく離してね!!!ゆっくりできないお兄さんはゆっくり死ね!!!」 懸命に足に体当たりを繰り返すが、そんなもの人間にはマッサージにしかならない。 興味の湧かない親ゆっくりをまた蹴飛ばし、3人の少年は帰路についた。 続き このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1449.html
そのちびれいむは、ずっと妹が欲しかった。 親れいむが病弱であり、植物的出産でありながら自分一人しか茎から生えなかったため、仲のいい姉妹が欲しかったのだ。 他のゆっくり家族に可愛いちびゆっくりがいるのを、いつもうらやましそうに眺めていた。 だから、親れいむがもう一匹の赤ちゃんを茎で生やしたとき、とても嬉しかった。 これで自分にも妹ができる。たくさんかわいがって、たくさんゆっくりさせてあげたい。 そう思って、毎日赤ちゃんに声をかけ、ほっぺをすりすりしてあげていたのだ。 だが、その希望は呆気なく潰えてしまった。 早すぎた出産。まだ妹れいむが生れ落ちる準備もできていないのに、親の体調が急変し、未熟なまま妹れいむはこの世に産み落とされた。 地面を力強く蹴って元気に跳ねるための体は、表皮がしっかり作られていないので立つことはおろか動くことすらできず、ただぶよぶよと体を揺らすだけ。 輝きを湛え、姉としての自分の姿を映してくれる筈だった瞳は、どこにも焦点を合わせることなく虚空を彷徨っている。 おねえちゃん、と甘えた声を出してくれるのを期待していた口からは、「ゆっくりしていってね!」も聞くことが出来ず、 イビツで壊れた鳴き声しか聞こえてこない。 自分の思い描いていたそれとあまりにかけ離れた妹の姿を見ながら、れいむはゆっくりと理解した。 この子は、ゆっくりできない子なんだと。そして、元気に自分の後をついてくることはこの先ずっとできやしないのだと。 エサをれいむから口移しで食べさせられるまま、壊れたレコード盤のように変わらない鳴き声を繰り返すだけの妹に、 ちびれいむは今日もひっそりと涙するのである。 挿絵:【未熟児ゆっくり.jpg】 ちびゆっくりの人です。 そろそろ自分のHNも決めていい頃かなと思ったり(`・ω・´) とりあえず『クラムボン』でお願いしますー。 クラムボンの著作物一覧 ゆっくり一家と俺の冬 上下 ゆっくりゃたまねぎ責め? あとちびゆっくりシリーズもろもろ このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4883.html
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」 家の外に一匹のゆっくりがいた これはたしか・・・まりす?まりさ?そんなやつだ ひまなので家に入れてやる 「ゆー!おそらをとんでるみたい〜」 「ありがとうおにいさん!いっしょにゆっくりしようね!」 はいはい 「ゆゆ〜ん!おにいさんがゆっくりしてればまりさもゆっくりできるよ!」 ……んー? ってことは今オレはゆっくりしてないってことか? 「ゆっ!?」 だってオレは普通にしてるぞ?ゆっくりしてないぞ? 「ゆゆゆゆ!?おにいさんゆっくりしてないの!?」 つまり今まりさはゆっくりできてないってことだ 「いみがわがんないよおお!?ゆっくり!?ゆっくりぃ!」 とりあえずさ、まりさくん?そのしゃべりかた全然ゆっくりしてないよね。もっとゆっくりしゃべろう? 「ゆゆ?ゆっくりしゃべればゆっくり・・・」 それがゆっくりってもんだろう? 「ゆ! ゆ っ く り は な す よ !」 「む〜〜〜しゃ、む〜〜〜しゃ、し あ わ せ ー !」 どうだい?ゆっくりできてるかい? 「と っ て も ゆ っ く り で き る よ ! ま り さ は い っ ぱ い た べ た か ら ゆ っ く り お ひ る ね す る ね !」 え?寝るの? それってゆっくりしてないよね 「ゆっぐりぃ!?」 あ、話し方戻った だって、寝るってことは動かないんだろ?とまるんだろ?それじゃ"ゆっくり"じゃないじゃん。うごいてないのは止まってるってことだ 「とまっちゃ・・・ゆっくりしてない・・・うごくよ・・・まりさはゆっくりうごくよ・・・」 話し方もどってやんの まぁゆっくりしていってね! 「ゆひぃ…ゆひぃ…もうつかれたよ…たいようさんもどっかいっちゃったよ…ねむいよ…」 あれ?どうしたんだ止まっちゃって、ゆっくりしてないな 「まりさ…ねたいよ、ゆっくりねたいよ…」 ゆっくりねる?寝ながらゆっくりするのか? 「ねむいよぉ…つがれたよぉ…もうゆっぐりしたくない…」 ゆっくりしたくないの?まぁいいけど じゃあおまえのこと"ゆっくりしないまりさ"とでも呼べばいいのかな? 「ゆ…ゆっくり…しないの、まりさゆっくり、していってね、ねむいの、しないの、ゆっくり、していってね ゆっくりしていってね、ゆっくりしていってね、ゆっくりしていってね、ゆっくりしていってね、……」 あ、壊れた。 まぁ明日ゆっくり料理とかググッてみよう ホアタァ! 「ゆっくりしてい で ぶ ぅ!」 おまけ 翌日、まりさが平然といた 「ゆっくりしていってね!」 あれ?ゆっくりしなくていいの? 「ゆっくりしていってね!なのにどうしてまりさがゆっくりするの?ばかなの?しぬの?」 おお!?開き直った? 「ちわーみかわやでーす」プシュアァァァァァ.... と謎の噴射を起こしながらまりさはどこかへ飛んでいった 一体なんだったんだろう ん? こ、これは昨日のまりさの死骸…どういうことだ!? 「すりかえておいたのさ!」デーンデデーンデデデン!(ry となぜかドアからさっきのまりさが出てきた つまりこいつはまりさの幽霊だったりするのかな? 南無阿弥陀仏 「ぎゃあああああ!!おのれはかったな!らめぇ!とんじゃう!まりさとんじゃうううぅぅぅぅ」 このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4199.html
数十キロはあった糞便を片付けるのに、丸一日かかった。 たった一日というと思ったより短いようだが、 まりさ共が口内の糞便を飲み込むたびに、 俺や使用人がひっきりなしに詰め替え、それがおよそ二十時間以上だ。 「かひゅうーーーーーーー………あひゅううーーーーーー……」 輪を取り外され、まりさ共は憔悴しきって、 吊り下げられた全身を波打たせている。 「うまかったか?」 俺が聞くと、しばらく開ききった口をもごもごさせてから、 上顎支点で吊り下げられたままで返答が帰ってきた。 「ゆっぐ……ゆっぐり……でぎだいぃぃぃ……」 「……ゆっぐじ……じだい……じだいぃぃぃ」 「おろじで……おろじでぇぇ……」 「口に合わなかったか?それは悪かった。 もっとゆっくりできるごはんを持ってきたよ」 そう言うと、俺はカートを新しく運んできた。 カートの上には、再び青いビニールで覆われた皿。 大きな皿をいくつか台の上に、まりさ共によく見える位置に置いてやる。 まりさ共の目は怯えていたが、いくぶんかの期待の色が見え隠れしていた。 もしかしたらこの人間は勘違いをしてあんなものを持ってきただけで、 今度はちゃんとゆっくりできるごはんを持ってきたのかもしれない。 そんなところだろうか。 「ゆっくり……ゆっくり……」 震える声で呟くまりさ共の前で、次の食事を公開してやる。 「ゆあああぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!!」 悲鳴が上がった。 ひどい腐臭の中で、俺は解説してやった。 「かき集めるのが大変だったよ。いまは夏場だからごらんのとおりだが、 まあお前たちゆっくりなら大丈夫だろう」 犬や猫、鳥や狼、町や森の中で拾ってきたあらゆる獣の死体が皿の上に乗っている。 どれもこれもひどい腐臭を放ち、体中に蛆が蠢いていた。 猫の眼窩や犬の裂けた腹部、穴という穴は蛆だらけだ。 蛆のほかにムカデやミミズ、なんだかよくわからない虫たかっており、 その上では大量の蠅がぶんぶんと飛び回っている。。 手近な猫の死体を長い菜箸でつまみ上げてやると、 腐りきって緑色に変色した肉はぐずぐずになってたやすく崩れ、黄色い膿が長い糸を引いた。 緑に紫に黄色に赤、一度死んだ肉は本当にカラフルになるものだ。 「ぐざい!!ぐじゃいいいいいい!!!やべでえええええ!!」 「おでがいいいいいいいぢがづげだいでえええええええええ!!!」 「急いで噛みつぶさないと、ウジやムカデがお前らを食うかもな」 「いいいいいいいやああああだああああああああああーーーーーっ!!!」 脅してやったおかげで、白目を向いて痙攣しながらも、 口腔内に放り込まれたまりさ共は今度は必至に咀嚼していた。 柄杓の表面にこびりついた蛆がまりさ共の表皮を這いまわり、目の中に一匹二匹侵入する。 嫌悪に身をよじらせながら、それでもまりさ共は泣きながら食事を続けた。 虫に関しては、もともと毛虫やら蝶々を食うゆっくりだから問題ないだろう。 顎の動きから嚥下を確認する度に、輪の蓋を開けて次の腐肉を注ぎ込む。 そのたびごとに、まりさ共は泣きながらあらん限りの声をあげて慈悲を求めた。 「ゆおおおおおおごおおおおごごごごごおおおおおああああああーーーーーーーーー」 まりさ共の努力で、腐肉は一日かからずに片付いた。 次はまともな食品を食べさせてやることにする。 その日俺が運んできたカートの上には、大きなボールがいくつも載せられていた。 そのいずれも、粉やらどろりとした液体やら練りものでなみなみと満たされ、 緑や黄色もあったが、それら内容物はおおむね赤かった。 まりさ共はきょとんとそれを見ている。 どうも味が想像できないようだ。 俺は親まりさの口に再び輪をはめた。 「ゆごっ!!おごっ、わっかさんはゆっぐじでぎだいぃいいごっ!!」 ばたばたと抵抗しながら、なすすべなく輪をはめられて大口をあける親まりさ。 「味見してみるか?」 俺は手近なボールから赤い粉を指ですくうと、 親まりさの口内に刷り込んでやった。 「!!??」 びぐん、と親まりさが空中で跳ねた。 「ゆぼびょがぎょぼばごぎゃがばああぁぁあーーーーーーーー!!!」 すさまじい絶叫をあげ、すぐにも吐き戻そうとするが、 俺がすぐに蓋を閉めたので、あわやというところで餡子は口内で止まった。 それでも親まりさの痙攣は止まらない。 いつまでたっても止まない親の悶絶を見て、子まりさ共が恐怖に震えている。 「トウガラシだよ」 俺は教えてやった。 甘味そのものたる饅頭でできているゆっくりにとって、辛味は毒である。 正確には辛味そのものが毒性を持つわけではなく、 あまりの苦痛に餡子を吐き出してしまい、 それが致死量を超えることが少なくない、ということだ。 50cm級のボリュームを持つ親まりさが、 ただひとすくいのトウガラシでなお暴れ続けている。 白目を向いた眼窩から涙が吹き出し続け、 すでに枯れ果てていると思われたしーしーとうんうんが、 すごい勢いであにゃるとまむまむから放出されていた。 本来ならとっくに絶命しているだろう。 しかし、死なせることは俺がしない。 食わせたはしからすぐに蓋をしてやるので、 たっぷりと味わってもらうことができる。 念のため、あにゃるとまむまむもガムテープで塞いでやることにしよう。 こうして、ゆっくりがいまだかつて味わったことのない世界に、 このまりさ共が、ゆっくり史上初の一歩を踏み出すことになるわけだ。 さぞ誇らしいことだろう。 親まりさがトウガラシを消化して動きが収まるまでに、 たっぷり十分はかかった。 「かひゅうーーー……ほひゅうーーーー……」 白目を向いたまま、親まりさは放心した体で呻いている。 「ちょっと味見しただけでこんなにゆっくりしてくれるんだな。 たっぷりあるから、ゆっくり味わっていってくれ」 そう言ってやり、トウガラシの粉を柄杓でたっぷり掬った。 親まりさの口に近づけるが、親まりさはまだ白目を向いたまま揺れている。 俺の声も耳に入っていないようだ。 構わず、口いっぱいにトウガラシを頬張らせて蓋をした。 親まりさが爆発した。 もちろん比喩的表現だが、まさにそれは爆発だった。 吊り下げられた状態で、よくもこれほど動けるものだ。 そう感心してしまうほど、電流に打たれたように跳ね回っていた。 ビビビビビビビビビビビビビビビビビ。 下膨れの顎が、上下左右にぶんぶんとシェイクしている。 まるで釣りあげられた直後の魚、いやそれ以上だ。 「ゆぁああああああ……ゆわぁああああああ………」 子まりさ共が絶望のシンフォニーを奏でている。 次は自分たちだ、それは痛いほど理解できているようだ。 命乞いをする気力もなく、ただ泣くことしかできない。 それでも、輪をはめられる段になると本能的に騒ぎはじめた。 「やべで!!ゆっぐりやべで!!やべでぇええええ!!まりざだげはぁああ!!」 「ゆっぐりじだいいいいいいい!!ゆっぐりざぜでぇええええええええ!!!」 「いやぁあああああいやぁあああああごろじでええええーーーーーっ」 三匹の子まりさ共には、また違うものを味わってもらった。 カラシを詰め込まれた子まりさは、やはりおこりのように痙攣している。 トウガラシとあまり変わらない。 わさびを詰め込まれた子まりさは、これも痙攣しているのだが、 カラシとはやや違うようだ。 半分白目を剥いて、下顎というか腹を前方に限界まで折り曲げて、 ぐにゅりと折りたたまれた状態で硬直しながら痙攣している。 わさびの辛さは鼻にくる。 想像するに、この量では「ツーン」というような生易しいものではなく、 脳天を錐で突きとおされているような感覚ではなかろうか。 最後の子まりさは、コショウを詰め込んだ。 すさまじい勢いでせき込んでいるが、 鼻がないので、口をふさげば何も出てこない。 膨れてはしぼむのをすごい速さで繰り返し、まるで早鐘を打つ心臓のようだ。 四匹ならんだゆっくりが痙攣しつづける様は壮観だった。 どれもが人間でもできないようなすさまじい速さで痙攣し、 微塵もゆっくりしていない。 見やると、隣のゆっくり共が反対側の壁にぴったり身を寄せて震えていた。 ゆっくりできないものを極端に恐れるゆっくりにとって、 高速で動くものは恐怖の対象である。 まして、同族であるまりさがすさまじい速さで痙攣するこの光景は、 こいつらにとってあまりに恐ろしいのだろう。 こちらに背を向けて壁にしがみつき、恐怖に泣き叫んでいる。 俺はスイッチを操作し、向こう側のマジックミラーを鏡に戻して、 向こうからは見えないようにした。 さて、この辛味を片付けるにはどれだけかかるか。 結論から言うと、まりさ共の反応は、やること自体はそう変わらなかった。 どれもすさまじい勢いで痙攣してばたばた暴れるというものだが、 その痙攣の度合が、きれいに辛味に比例するようだ。 より辛いものを食わせるたびに、痙攣の間隔が速くなり、ぶれる大きさは増大していった。 辛味は、スコヴィル値と呼ばれる数値で計測することが可能である。 トウガラシの辛味は、およそ三万~四万といったところだ。 スコヴィル値三十五万のハバネロを食わせたときは、 バイブレーターのように震えていた。 ビビビビビビから、ビィィィィィィーーーーーー………という感じだ。 下腹部はもはやぶれてよく見えない。 最終的には、世界一辛いトウガラシと言われる、 スコヴィル値百万のジョロキアを食わせた。 この時は驚いた、その痙攣はもはや擬音に変換できるレベルを超えている。 体のぶれは早すぎて、ぱっと見ではまったく動いていないように見えるほどになり、 ぶれる下腹部の軌道がそのまま輪郭となって、 頭部分だけがにょきりと突きでた扁平な饅頭のように見えた。 はたから見ていても異常な光景だが、 こいつら自身の感じている苦痛たるやどれほどのものだろうか。 つくづく、ゆっくりの不可解さと頑丈さを思い知った。 他の生き物の筋肉では、どれだけの刺激を与えてもここまで動けるものではないだろう。 ゆっくりという名前に反して、この生き物はすさまじい潜在能力を秘めているようだ。 辛味を食わせはじめてから最後のジョロキアを片付けるまでにかかった時間は、二週間だった。 そもそも、この激痛では「食う」という思考さえ発する余裕がないだろう。 意思とは無関係に喉から勝手に吸収されるのを待つ、という緩慢な食事だった。 ともあれ少々不安はあったが、餡子さえ吐かなければ、 どれだけ辛いものを食べても死なないことは証明された。 人間だって死にそうなものだが、これも意外なゆっくりの耐久性といったところか。 辛味を食わせるのにだいぶ時間がかかったが、次はすぐに終わるだろう。 発狂のできない悲しさでいまだ意識を保っているまりさ共に、俺は聞いてやった。 「かき氷って好きだったよな、お前ら」 コンビニで買ってくるかき氷が、このまりさ共は好物だった。 夏場などは他のれいむやありすから奪い取って貪っていたものだ。 かき氷と聞いて、まりさ共の目が輝いた。 「すきぃ!!かきごおりだいすきなんだぜぇええ!!ゆっくりできるうううううううう!!!」 「さんざん辛いものを食わせたからな、次は冷たいものをと思って今日はそれを持ってきた。たっぷりな」 「やったのぜええええええええ!!!やっとゆっくりできるんだぜええええええええ!!!」 「おにいさんはやっとわかったのぜええええええ!!?えらいんだぜえええええええ!!!」 「ゆっくり!!ゆっくりできるううううううう!!!ゆっくりいいいいいーーーーー!!!」 言葉遣いが少しばかり戻ってきたようだ。元気でいいことだ。 狂喜する親まりさの口に、再び輪を嵌める。 「ゆっ!!?やめるんだぜ!!わっかさんなくてもまりさはたべるんだぜぇおごっ!!」 あれだけ辛味を食べていても、中の様子は一見変わっている様子はなかった。 あれでもすべて餡子に変換しているらしい。ゆっくりコンポストが人気なのもうなずける。 四匹並んで大口をあけるまりさ共の前で、俺は道具を取り出した。 まず、ペンチを持ち出して親まりさの歯を挟む。 強度はともかくとして、 直径50cmにもなるまりさの歯は相当でかく、直径2~3cmはあるようだった。 「ゆゆぅぅううぐぅぅぅう!!?」 自分がされることを察知したらしい親まりさがじたばたともがき始めた。 俺はペンチをゆっくりと傾け、歯をねじっていった。 「ゆごっ、ぼっごっごごごごごっごおおおおおおおおお!!!」 一回転したところで、歯はたやすく根本から抜けた。 親まりさは大粒の涙をぼろぼろ流して呻いている。 「ゆあああああいいいいいいいいいい………えううううううううぐううううううう」 手早く次の歯にペンチを伸ばした。 ここでの初日にさんざん蹴りつけたせいで、すでに多くの歯が折れていたが、 半分折れているようなのも含めるとまだ十本はあった。 それらを綺麗に、全部こじり取る。 健康な歯を、引っこ抜かれるならまだしもねじられて抜かれる痛みは相当なようだ。 ねじられていく歯が歯茎を押し潰し、破壊していく。 「ごごぉおおおおお!!どおおおおおおお!!!あうぐううううううううーーーーーーっ!!!」 すべてを抜いた後は、まりさの大口の中に白いものはなくなった。 餡子とはいっても、歯茎を構成する部分は比較的固く、骨格に近い働きをしているようだ。 歯があった跡は、すべてぐずぐずの穴の列になり、 ピンク色の歯茎に、露出した黒い餡子がU字型に並んでいる。 子まりさ共を見やると、全員がすでに大粒の涙を流していた。 「やべでえええええええゆるじでええええええーーーーーーーーーっ」 「いりまぜん!!がぎごおりいりばぜええええええん!!!ぢょうじのっでばじだああああああああ!!!」 「ばざんぬがないでええええええええごばんだべられだいいいいいいいいい」 「歯がなければまともに喋ることもできないからな。必要になったらまた挿してやるよ」 子まりさ共にも輪っかをはめて口を開けさせ、歯をすべてこじり抜く。 ひとまずこれで目的は達成できるが、さらに念を入れる。 工業用の電気ドリルを持ち出すと、再び親まりさから処置を施す。 直径1センチ程度の細いドリルを、歯の抜けたぐずぐずの跡に突き入れた。 「がびゃあっ!!!?」 びぐんと跳ねるまりさを押さえつけながらスイッチを入れ、 回転するドリルをゆっくりと歯茎の奥まで突き込む。 「ががががががががががががががががががががあああぁ!!!!!!」 どれぐらい入れるか少し悩んだが、5センチぐらい突っ込み、 突っ込んでは内部でねじり回して神経を引っ掻いた。 本気で引っ掻くとたやすく歯茎ごと崩れてしまうので慎重に行う。 「ばいいいいいいいぐうううううういいいいいいいおおおおおごごごごごばばばばばだあああだああああああああががががががあああああああーーーーーーーーーっ」 すさまじい声量の悲鳴が部屋に充満する。 「ゆううううううううう!!!あゆううううううううううう!!うううううううううーーーーーーーっ!!!!」 子まりさ共も自分がされる前からひっきりなしに悲鳴をあげている。 研究者によれば、外見と同じくゆっくりの体のはたらきは人間と酷似しており、 歯茎の中にも、神経と同じ作用をする餡子が詰まっているらしい。 一見崩れた餡子の塊にしか見えないが、 ぐしゃぐしゃの歯茎の中で、神経となる餡子がむき出しになって外気に晒されるわけだ。 俺も昔歯医者の世話になったことがあるが、その苦痛は俺の体験の万倍にもなるだろう。 「あがああああああああごおおおおおおおおおおーーーーーーー」 すべての歯の神経をかき回されむき出しにされたまりさ共は、 俺がドリルを抜いたあとも叫び続けていた。 神経が外気に触れるだけでもすさまじい苦痛を呼び込むようだ。 「じゃあ、食事にしようか」 俺の言葉にもまりさ共は反応せず、忙しく叫び続けている。 仕方がないので勝手にやらせてもらうことにした。 連絡して、スチロールの箱を大量に運び込んでもらう。 スチロールの箱の中に、ドライアイスで冷凍保存された袋詰めのかき氷が大量に詰められていた。 それらをかたっぱしから大きなボールに開けると、 ボールをそのまま親まりさの前に持っていく。 親まりさは歯茎の痛みに暴れまわっていたが、 視界の端で俺のやっていることを捉え、さらに涙の量を増やした。 もはやスプリンクラーのように涙が飛び散っている。 溢れるほど口いっぱいに氷をつめこみ、急いで蓋をする。 白目を向いていた親まりさの目がいっぱいに見開かれた。 氷の冷気が、歯茎の神経を通って餡子の髄まで貫いたようだ。 ぐるぐると瞳を回転させ、親まりさはすさまじい勢いで暴れまわった。 振り子のように前後に顎をぶんぶん振っている。 全員にかき氷を食わせて観察する。 しばらくの間まりさ共は暴れていたが、やがて意外な反応を見せはじめた。 目をぎゅっと閉じて体を縦にめいっぱい伸ばしている。 どうやら、せめて上顎の歯茎に氷を当てないようにしたいらしい。 限界まで大口を開けさせたうえで満杯に氷を詰め込んだのだから、 そんな事をしても顎はそれ以上開きも閉じもしないのだが、 縦長に体を伸ばしているまりさはそれなりに珍しい見ものだった。 もっとも、今後はもっともっと珍しい状態を見せてもらうのだが。 氷は数時間で片付いた。 食べるというより飲み込むだけなのでさすがに早い。 その日のうちに、俺は次の食事を出した。 「それじゃ、後は野菜をやろう」 まりさ共の目が開き、恐怖8、媚びが2程度の感情を湛えた。 「安心しろ。腐ってない、新鮮な野菜だ」 ここまでされても期待を捨てられないのが餡子脳たるゆえんだ。 それゆえにタフなゆっくりを、完全な絶望と後悔に染めるには骨が折れそうだ。 もっとも、絶望を味わわせる試みはまだ始まってもいない。 じっくり腰を据えてかかろう。 最後に俺が持ってきたのはサボテンだった。 口いっぱいにサボテンを詰め込まれ、 ぐじゅぐじゅに潰された歯茎を含めた口中を針で刺し貫かれながらまりさ共は苦痛に身をよじる。 これを食わせるにあたって、まりさ共をフックから取り外し床に置いてやった。 苦痛にのたうちまわるほどに、まりさ共の口内のサボテンは床に押されてますます針を深く突き立てる。 一応は有機物なのだからいつかは消化されるだろうが、 サボテンの固い表皮が餡子に変換されるにはまた相当かかるだろう。 しばらくは、これらのものをローテーションさせながら不眠不休で食べてもらうことになる。 回復力の強いゆっくりだから、歯茎はすぐに回復する。 そのたびに電気ドリルで神経をむき出しにすることで、 食事による苦痛は数倍になるだろう。 歯がなく咀嚼できないため、頼りは体液による消化のみだ。時間もかかる。 まりさ共については、ひとまず今のところはこんなものか。 まりさ共と並行して、れいむ共とありす共にも処置を行っていた。 初日、れいむ種の四匹は、 目覚める前にそれぞれ個室に入れた。 およそ1~2m程度の、ピンク色の不透明な箱だ。 親れいむが目覚めると、周囲は狭いピンク色の空間だった。 「ゆゆっ!?」 状況がつかめず、うろたえて周囲を見渡す親れいむ。 見慣れない場所。家族の姿も見えない。 「ゆっ!くそどれいはかわいいれいむをさっさとここからだしてね!!」 れいむは叫んだが、それに対する返答はなく、 代わりに挨拶が返ってきた。 「ゆっくりしていってね!!」 背中から聞こえてきた声に振り向くと、そこには知らないまりさがいた。 自分とほぼ同サイズのそのまりさの姿に、れいむは息をのんだ。 絹のようにさらさらで輝くばかりの光沢をもつ金髪、 ビロードのようなてかりを放つ黒い帽子、 ふっくらもちもちの、極上の血色もとい餡色を帯びた肌。 今まで見てきたゆっくりなど問題にならないほどの極上の美まりさだった。 「ゆっ!ゆっくりしていってねぇぇ!!」 息も荒く、れいむは言い放った。 「まりさのいえにいらっしゃい!ゆっくりおともだちになろうね!!」 美まりさが返してくる。 そのころころした美しい声に、親れいむはまためろめろになるのだった。 家族たちが不安ではあったが、 甘やかされきった彼女には、心配ごとはすべて奴隷が片付けるものであったから、 外に向かって命令すればすぐに会えると思い、 今は目の前のまりさとゆっくりすることに集中することにした。 やや緊張しながらも、他愛のない話を交わす。 美まりさは性格もよく、いろんなことを知っていて、話していて楽しかった。 すっきりしたい、という欲望が頭をもたげるのにそう時間はかからなかった。 夫のまりさに対する操が一瞬頭をよぎったが、 妾を堂々と連れてくるあのまりさに対し、あてつけでこちらも存分にすっきりしてやろうと思った。 どういうきっかけを作ってすっきりしようか逡巡しているうちに、 ピンク色の室内に、なにやら香が漂ってきた。 無味無臭のその香りに気づかぬまま、れいむとまりさはそれを嗅ぎ、 嗅いでいるうちに表皮がほんのりと湿り気を帯びてきた。 「ゆふぅ……ゆふぅ……まっ、まりさぁぁ……」 催淫剤の香だった。 発情に頬を紅潮させ、れいむは辛抱たまらずまりさにすり寄った。 まりさも抵抗せず、れいむのすりすりにリズムを合わせてうごめきだした。 しばらく摩擦で気分を盛り上げたあと、 美まりさはれいむに向かって、いきり立ったぺにぺにを見せつけた。 「ゆふぅぅ~……すっきりしたいよ……!」 「ま、まりさにならいいよ……!」 れいむはまむまむを突き出し、迎え入れる姿勢を取った。 美まりさ共には躾を施してあった。 すっきりは、ぺにぺにを相手のまむまむに刺すやり方でなければいけない。 全身を擦り合わせる方法ではすっきりできない。 そのように刷り込んであった。 擦り合わせる交尾では、植物型にんっしんっとなり、 ぺにまむ型では、胎生型にんっしんっとなる。 胎生型の出産をしたゆっくりは、 植物型による出産よりも、子供への愛情が強い傾向にある。 個体数が少ないことと、出産時の苦労からくるものとされている。 この特性を、今回は活用することにする。 たちまちのうちにすっきりを終え、れいむは胎生型にんっしんっを果たした。 早くもぷっくり膨らんだ顎を見下ろし、ゆふゆふ満足げな声を漏らしている。 そうしていると、今度は白いガスが吹き込まれてきた。 これには強力な睡眠剤、そして成長促進剤が含まれている。 親れいむの意識はすぐに落ちていった。 以上の手順は、三匹の子れいむ共にもそれぞれ全く同じように施されていた。 翌日、四匹のれいむ共はひとつの部屋に集められていた。 四匹とも、部屋の中心に供えられたおよそ2m四方の大きなガラス箱の中だ。 子を体内に宿したゆっくりれいむ共は 親子四匹とも、もとから下膨れの輪郭が下方向にたっぷりと膨らみ、 目と口が上方にめいっぱい偏った洋梨のような無様な姿になっている。 成長促進剤によって出産を早められたれいむ共は、 四匹とも今日が出産予定日だ。 ゆっくり達が出産に集中できるよう、この部屋に人間はいないが、 備え付けのカメラで出産の様子は別室から逐一確認できるようになっている。 俺は今、監視室でそれを見届けていた。 「ゆっ!!」 「ゆゆ!れいむどうしたの?」 「う……う……うばれるうう!!」 一匹が産気づいたようだ。 一匹の子れいむの顎の下に小さな穴が空き、外側に盛り上がりながらひくついている。 顔を真っ赤にしていきむ子れいむを、他のれいむ共が応援する。 「ゆううぅぅ!!ゆううぅぅ!!」 「ゆっくりうまれていってね!!ゆっくりがんばってね!!」 ゆっくりの出産は激痛を伴う。 生涯最大級の痛みは、痛みに弱いゆっくりにとってこの上ない苦しみだが、 ひとえに赤ゆっくりへの愛情のため、この時ばかりは文句ひとつ言わずに堪える。 「うばれるうう!!ゆっぐり!ゆっぐうううううう!!」 「がんばってね!!がんばってね!!おおきくいきをすってはいてね!!」 「おねえちゃんがんばって!!ゆっくりしたあかちゃんをみせてね!!」 「がんばづうう!!でいぶがんばづううう!!ゆっぐりいいいい!!」 「ゆっゆっゆー!!ゆっゆっゆー!!」 歯茎をむき出して全力でいきむれいむ。 腹の火山のような盛り上がりはますます大きくなり、 中心部の穴、産道が少しずつ広がっていった。 「ゆゆっ!!あかちゃんのおかおがみえてきたよ!!」 「いだいいいい!!あがぢゃん!あがぢゃあああああん!!」 「おちついていきんでね!!だいじょうぶだからね!!」 産み方を指示しているのは親れいむだ。 「かわいいあかちゃんだよ!!がんばってね!!」 「ゆぐっ、ゆぐっ、ゆぐぐぐぐぐぐぐぐうううう」 涙を流し、歯を食いしばりながらいきんだ末に、 れいむはついに赤ゆっくりを生みだした。 ぽん、と勢いよく飛び出して床に着地したれいむ種の赤ゆっくりは、 ぎこちない動きで母親に向きなおると、笑顔で叫んだ。 「ゆっきゅちちていっちぇね!!」 それを見届け、れいむ達の視線が産んだれいむに向けられる。 赤ゆっくりの生まれてはじめての挨拶。 出産の苦痛があとを引く中で、産んだれいむはそれでも満面の笑みを浮かべて叫んだ。 「ゆっくりしていってねええ!!」 「おきゃあしゃん!!ゆっきゅりしちぇいっちぇね!! ゆっきゅりしちぇいっちぇね!!」 飛び跳ねながら母親のもとに駆け寄る赤ゆっくり。 「おちびちゃん!ゆっくりしていってね!!」 「とってもゆっくりしたあかちゃんだよお!!」 「れいむがんばったね!!えらかったねええ!!」 周りのれいむ達も口々に祝福の言葉を贈る。 幸福感に満ちた表情ですりすりをするできたての親子を眺めながら、 一様にたるんだ笑みを浮かべていた。 「ゆぐっ!!」 程なくして、別の子れいむがうめき声をあげた。 こちらも産気づいたようだ。 「ゆゆっ!!こっちのれいむもうまれるよ!!」 「がんばってね!!がんばってね!!」 数時間後、四匹の子れいむは全員が出産を終え、 箱の中では合計九匹の赤ゆっくりが動きまわっていた。 一度に数匹生んだれいむもいたため、この数になった。 赤ゆっくりの内訳は、れいむ種が六匹、まりさ種が三匹だ。 胎生型にんっしんっのため、どれも赤ゆっくりとしては大きめのみかんサイズだ。 「おちびちゃん!ゆっくりしていってね!!」 「ゆっきゅちちちぇいっちぇね!!」 「ゆっきゅちちちぇいっちぇね!!」 「とってもゆっくりしたおちびちゃんたちだね!!」 「れいむのあかちゃんたちとってもかわいいよおお!!」 れいむ共は飽きることなく「ゆっくりしていってね!!」を繰り返し、 それぞれ自分の産んだ赤ゆっくりを側に置いて頬ずりをしている。 「さあ、おちびちゃんたち!おかあさんとすーりすーりしようね!」 「ゆっ!おきゃあしゃんとしゅーりしゅーりしゅるよ!」 「しゅーり♪しゅーり♪」 「すーり♪すーり♪」 「あかちゃんたちかわいいねええ!」 「ゆっくりしてるよおお、ほっぺたもちもちねええ!」 「ゆっくりできるおうたをうたおうね! ゆ~、ゆ~ゆ~、ゆゆゆ~~♪」 幸福に満ちたゆっくりの群れ。 俺は立ち上がり、部屋に向かった。 「おにーしゃんはゆっきゅりできりゅひちょ?」 部屋の中に入ってきた俺に向かって、赤れいむの一匹が話しかけてきた。 俺は答えない。 「ゆゆっ!!ごみくずがやってきたよ!!」 「なにかってにみてるのおお!?」 「ごみくずにはれいむたちのゆっくりしたあかちゃんをみるけんりなんてないんだよお!! なにかんちがいしてるの?ばかなの!?あまあまをおいてさっさとでていってね!!」 不思議がる赤ゆっくり達に向かって、親れいむ共は教えた。 「あれはごみくずだよ!おにいさんなんてよばなくていいからね!!」 「やくにたたないくせにからだだけおおきいばかなんだよ!」 「みんな、あんなふうになっちゃだめだよ!!」 「わきゃっちゃよ、りぇいみゅはあんにゃふうににゃらにゃいよ!」 「ごみくじゅ!ごみくじゅ!」 「きゃわいいりぇいむをみにゃいでね!ごみくじゅ!!」 親に気に入られたいがために、赤ゆっくり共は俺に罵声を浴びせてきた。 「ゆゆっ、おちびちゃんたちはとってもものわかりがいいね!!」 「もっといってあげてね!!」 「くそどれいはなにしてるの?ばかなの? こんなかわいいあかちゃん、ごみくずにはもったいないよ!ゆっくりりかいしてね!!」 「こえだけならきかせてあげてもいいよ!うしろをむいててね!!」 しばらくの間好きに言わせたあと、俺は始めることにした。 箱の中に手を突っ込み、赤ゆっくりを一匹手に取る。 「ゆゆっ?おしょりゃをちょんでりゅみちゃい~♪」 赤ゆっくりを箱の外に運び出し、床に置いたところで、 呆然として見ていた親れいむ共が弾かれたように喚き始めた。 「なにやってるのおおおおおお!?」 「ごみくずうううう!!おちびちゃんにさわるなああああああ!!」 「かえせえええええええ!!れいむのおちびちゃんかえせえええええ!!」 構わず、二匹目を運び出しにかかる。 箱の中に突っ込まれた俺の手に向かって、 殺意に満ちたれいむ共の体当たりや噛みつきが襲ってきた。 まるで痛くもない。 俺はわざとゆっくり、一匹ずつ大仰に運び出していった。 「ゆがああああああ!!かえせええええええ!!」 「きたないてでおちびちゃんにさわるなあああ!!」 「ばか!?ばか!?ばかなのおおおお!?ほんもののばかなのねええ!? ばかはばかなりにみのほどをわきまえてねええええ!!」 何匹か運び出したところで、箱の隅に固まっている二匹のれいむが見えた。 角のほうにぴったりと身を寄せ、顔をぱんぱんに膨らませて俺を睨んでいる。 ほとんど運び出し、赤ゆっくりが目につかなくなったところで、 俺はわざととぼけてみせた。 「赤ゆっくりはこれで全部かな?」 「かえせえええええ!!!」 「まだ残っていたような気がするがな?」 箱の中を見回してみせると、隅のれいむ共がますます膨らんだ。 そちらに視線を止める。 他のれいむ共が口々に叫んだ。 「あかちゃんたちはごみくずがぜんぶはこびだしたよ!!」 「そんなところみてももういないよ!!ごみくずはばかだね!!」 「ゆっくりあきらめておちびちゃんをかえしてね!!」 「いないのか?」 「いないよ!!ゆっくりあきらめてしんでね!!」 「ここをまだ見てないぞ?」 「そんなところみなくていいよおおお!!いないよおお!!」 「そうか、いないのか。残念だな」 「ゆ!わかったらさっさとかえしてね!!ばーか!!」 「でも念のためだしな。一応見てみようか」 隅のほうに手を伸ばす。 ゆっくり共が絶叫しはじめた。 「いないよ!いないよおおお!!みなくていいいい!!」 「ばかなのおおお?しぬのおおお!?」 「ぷっくうううううううう!!!!」 膨らむれいむを転がすと、ぶるぶる震えている赤ゆっくりが三匹見えた。 面倒なので全部一度に持ち出す。 「ゆああああああああ!!やめろごみくずううう!!!」 九匹の赤ゆっくりは、 今や全てが箱の外で、透明な壁ごしに親ゆっくり共を見つめている。 「おきゃあしゃん、きょきょあけちぇね?」 「しゅーりしゅーりしちゃいよ?」 「かべさんゆっくりどいてね!」 親の元に駆け寄ろうとするが、ガラスの壁に遮られて進めない。 体当たりをしても跳ね返され、ついには泣きだした。 「ゆわああぁぁん!!かべさんどうしていじわるするのおぉぉ!!」 「しゅーりしゅーりしちゃいいいぃぃぃ!!」 「おきゃあしゃあああん!!あけちぇよおぉぉ!!」 親れいむ達も同じように泣き喚いている。 「おちびちゃんん!おちびちゃあああんんん!!」 「かえせごみくずうううう!!なにしてるうううう!!」 「なにだまってるのおおおお!?ふざけるなああ!!」 しばらく観察したあとで、俺は爪楊枝を取りだした。 赤ゆっくり相手に、たいした道具もいらない。 壁にへばりついている赤ゆっくり達に、爪楊枝の先端をつきつける。 「ゆぎゃっ!?」 「いぢゃいぃ!?」 ちくちくと肌を突かれ、生まれて初めての痛みに声をあげる赤ゆっくり。 「やめちぇ!やめちぇぇ!!」 「いぢゃいい!!おきゃあしゃああんん!!」 「なにしてるのおおおおお!!?やめろおおおお!!」 親れいむ共が喚き、箱の外壁に体当たりをするが、 部屋の床にしっかりと固定された箱は揺らぎもしない。 「おきゃあしゃああああん!!」 「ゆえええぇぇん!!」 爪楊枝から逃れようとちりぢりに逃げようとする赤ゆっくり共。 しかし、その鼻先に爪楊枝を突きつけ、追い返す。 元から移動速度の遅いゆっくりの幼児のこと、悲しいほどに遅く、 九匹もいるとはいえ、座ったままで充分に全員を操作できた。 今や赤ゆっくりは互いに身をよせあって一か所に固まり、 四方から迫りくる爪楊枝に、ただ泣き喚き、母に助けを求めている。 「たしゅけちぇええ!!たしゅけちぇえええ!!!」 「ゆびゃっ!!」「いぢゃあっ!!」 「もういやぁぁぁぁ!!」 「おきゃあしゃああああんなんでえええええ!?」 「おちびちゃん!!おちびちゃああああん!!!」 固まってぶるぶる震える赤ゆっくり共。 俺はそこで道具を持ち変え、バーナーを手にした。 一匹の赤まりさを手にとり、底面を上に持つ。 「ゆっ?はなちてにぇ!はなちてにぇ!!」 もぞもぞと抗う赤まりさの底面を炎が焼き焦がす。 「ゆぴいいいいいいいいいいいいいい!!!??」 笛吹きヤカンのような悲鳴が響き渡る。 「おちびちゃんんん!!」 「やめなさいいいい!!いたがってるでしょおおおおおお!?」 「くそじじいいいいいいますぐはなせええええええええ!!!」 低出力のバーナーで、ゆっくりと丹念に赤まりさの足は焼かれてゆく。 「びびびびびいいいいああああああぢゅいいいいいいいいいいぎぎぎぎぎぎぃいあぢゅああああおぢゃあしゃあああああああーーーーっああーーーーーーーっづづづづづづづうううううぐうううういやぢゃああああああぐぎいいいいいいいーーーーーー」 泡を吹き、悶え、痙攣する赤ゆっくりの底面は、 やがて真っ黒に焼け焦げた。 恐らくは中の餡子まで焦げ付いているだろうが、ともかく生きている。 それを床に置くと、泣く元気もなくぐったりとうなだれた。 「ゆわああぁぁ……あんよがあぁぁ……」 「おぢびぢゃんのがわいいあんよがあああ……」 俺に悪態をつくことさえ忘れ、 赤ゆっくり以上に涙を流し、壁面にへばりついて親れいむ共は嘆いている。 赤まりさの足がもはや用をなさないことは誰の目にも明らかだった。 固まっている残りの赤ゆっくり共は、あまりのことに硬直して、 ただ事のなりゆきを凝視していた。 次は赤れいむを手にとる。 「いやぢゃあああああああ!!!」 何をされるかを理解した赤れいむは、ここを先途と絶叫する。 「だじゅげぢぇええええおぎゃあじゃああああん!! でいぶあんよやぎゃれぢゃぎゅにゃいいいいいいいいいいい!!!」 「ごみぐずううううううううううう!!!」 「いばずぐばなぜええええええぐぞじじいいい!!」 「頭に来るな」 俺は答えてやった。 「ゴミクズだの糞奴隷だの、さんざんに言ってくれるな。 俺はすごく気分が悪い。頭に来てる」 「じるがああああ!!ごみぐずごみぐずごみぐずううう!!」 「だまれだまれだまれえええ!!じじいはざっざどがえじでじねえええ!!」 「頭に来るから、こいつも焼く」 そこで親れいむ共の様子が変わった。 罵倒を中止して黙り込み、赤れいむに近づけられるバーナーを見つめている 懇切丁寧に解説してやった甲斐があり、今の状況がようやく把握できたようだ。 「おにいさん!!やめてね!ゆっくりやめてね!!」 「ごめんなさい!!ごみくずっていってごめんなさい!!ね!!」 「もうやめてあげるからね!!おにいさんもやめてね!!」 「ゆばがぎゃああああああああああああ!!!」 「なんでえええええええええええ!!?」 赤れいむの底面が丹念に焼かれる間、親れいむ共は懇願し続けた。 「やめてくだざい!!やめでえええええええ」 「おでがいじばず!!おでがいじばず!!」 「おにいざあああああんもうばがにじまぜえええええええん!!」 「ゆっくりざぜであげてええええええええええ!!!」 「でいぶをやいでぐだざいいい!!おぢびぢゃんはだずげでえええ!!」 一人が身代わりを申し出たのを皮切りに、 親れいむ共全員が競うようにして自らを差し出した。 「でいぶをやいでえええ!!おでがいでずううううう!!」 「でいぶはどうなっでもいいでずううううううう!! おぢびぢゃんは!!おぢびぢゃんだげはああああああああ」 「どっでもゆっぐりじだあがぢゃんなんでずうううううう!! でいぶになら!!でいぶにならなにをじでもいいでずがら!!あがぢゃんだずげでええええ!!!」 ゆっくりの中でも、れいむ種は特別母性が強い。 自分の子供を溺愛することにかけては他の種とは比べものにならず、 今やっているように、拷問の身代りになることさえ厭わない。 やはり思ったとおりだ。 れいむ種にとって最大の苦痛は、子供を傷めつけられることなのだ。 方針は決まった。 続く
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/2501.html
俺設定 いろいろな設定お借り どちらかというと外の世界 しーしー表現あり ******************************************************* ゆっくりの伝道師 ******************************************************* タッタッタッタッタッ 今自宅に向けて全力疾走している俺はいい年したお兄さん。 帰り道ふと時計を見たら毎週見ているアニメがもうすぐ始まっちゃうことに気付いてだいぶ焦ってるのさ! 一応予約録画は掛けてあるけれども、 やっぱりテレビで見つつスレに張り付いて実況するのが醍醐味だと思うんだよね。 今回は次回予告で「おりんりんランド崩壊か!?」とかあったから見逃す訳にはいかない。 あの角を曲がればカーナビが見捨てるほど近くに自宅が見える! はぁはぁ 「「ゆっくりしていってね!!」」 目の前に最近現れたと聞くしゃべる飾り饅頭通称「ゆっくり」発見! 下手に構うといろいろ面倒そうだしなにより一刻を争う事態。 二匹いて飾りの種類が違うとかそこはどうでもいい。 おりんりんランドがお兄さんを待ってるんだよ、わかってねー。 もうダッシュでゆっくりの横を駆け抜けようとしたその時。 「「ゆっくりしていってね!!」」 クラッ 「お…」 一瞬めまいがしたがそんなことはなかったぜ! そういえばこいつらのふてぶてしい顔や傲慢な言動を嫌い虐待している人もいるらしいが、 別にゆっくりに構わなくてもアニメは見れる。おりんりんランドには行ける。 無視だ!無視! 「「ゆっくりしていってね!!」」 クラクラッ 「おおおっと」 ドタン! 体から急に力が抜ける感覚がして、立つことができなくなり、 壁に寄りかかるようにして倒れた。 「「ゆっくりしていってね!!」」 「立てない!なぜだ!」 足に力が入らない。 チクショウッ!俺にはアニメがあるんだ! こんな所で、こんな所で倒れるわけには! 「「ゆっくりしていってね!!!」」 瞬間、俺の視界がモヤモヤと歪んできた。 ところどころ舗装が剥けている道がなぜか花畑に見える。 視界をちょろちょろ飛んでいるのは・・・ちょうちょか? ゆ っ く り し て い っ て ね ! ! ゆっくりの言葉が体にゆっくりと染み込んでくる。 俺はアニメを見なければ、おりんりんランドを拝まなければ…。 今日のおりんりん…今日のランド…今日のおりんりん…。 ゆ っ く り し て い っ て ね ! ! ………。 ああ、よく考えればアニメなんてそんなに見たくないかもしれない。 たぶん従業員ボイコットを気にゾンビ総動員なんだろうしな。 万が一に化けたと話題になったら後で録画したやつをゆっくり見ればいい。 いや、そんなすぐに見なくてもしばらく経ったあと高画質かつ特典いっぱいのディスクを買おう。 いっそのこと墓場まで記憶は持って行けないという理由で、そんなの見なくてもいいという発想。 それより…なんだ、こう、もっと、ゆっくり…したい。 まどろみにからだを任せて、ゆっくりとゆっくりと沈みたい。 そのままゆっくりできる世界へ旅立とう。 誰もがゆっくりできる世界へ! ―――――――――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――― ――――――――――――――― ―――――――――― ――――― 「どぼじでまたねぢゃうのお゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛??!」 「まだまりざあまあまもらっでないのにい゛い゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」 お兄さんが眠っている横でゆっくりれいむとゆっくりまりさは叫んだ。 せっかく自分たちがゆっくりということを教えにわざわざ山から下りてきているというのに。 最初に会った白くてしわしわな人間は「ゆっくりしていってね」と挨拶しても、 「ん?なんか言ったか?」「ああ、ゆっくりしてるよ」とまるで話が通じない。 挨拶ができなくともあまあまを持ってくることくらいできるだろうと脅してやったら、 「海女…わたしも若い頃は張り切ったものですね」「あの頃は一目ぼれじゃった」 もう無駄と判断して深追いはしなかった。 しわしわじゃない人間にしようと思い次に出会ったのは、髪の毛がなく群れでいじめられてそうな人間。 いかにも生きる希望を見失ってるという表情をしているこいつに、 ゆっくりを教えたらきっと感動してお礼もうんとはずむだろうと思った。 案の定「ゆっくりしていってね」と挨拶したら、 初めてゆっくりを知れた喜びか涙と鼻水で顔をびしょびしょにしていた。 全く、群れのおちびちゃんでもしーしーは我慢できるのに… とにかくこれなら当初の予定通りお礼もたくさんもらえるだろう。 しかし思い通りにはいかなかった。 かわいそうな人間は「おまえたちだけなんだなあああ」とその汚い顔ですり寄ってきたのだ! 「ありがとう、本当にありがとうぅ」擦りつけられるたびにネトネトした気持ち悪いのがきれいな肌にこびりつく。 奔流は過ぎたが、ネトネトの感覚はまだ残っていて非常に不愉快だ。 とりあえず体をきれいにするため自分をぺーろぺーろした。 舌にネトネトがつくたびににがにががじわっと来てひどくゆっくりできない。 適当鬼きれいにしたところであまあまを要求しようとしたが、すでにその人間は目の前から消えていた。 結局その人間がゆっくりと引き換えにくれたのはあまあまではなくにがにがであった。 これら失敗を踏まえて今度は顔色がよく元気そうな人間を選んだのだが結果はご覧のざま。 今のところ恩を恩で返す人間は一人もいない。 ゆっくりは人間を見たらゆっくりということを教えなければならない。 そして人間はゆっくりを教えられたのだから、 その見返りに自分たちにあまあまをたくさん渡さなければならない。 これは群れのルールだ。バカな人間でもこれくらいは理解できると思っていた。 「まりさ…まただめだったね…」 「しょうがないよれいむ、にんげんさんはあんこのうなんだから!」 コツコツコツ 「ゆゆ?あしおとがきこえるよ!」 「こんどこそあまあまをもらおうね、れいむ!」 目を凝らして道の先を見ると金色の髪の毛をした人間が一人。 金色と言っても群れにいるありすとは比較のしようがないほどひどい色。 だがよぼよぼでも、髪なしでも、せかせかでもない。 「これならだいじょうぶそうだね!」 「じゃあいくよ、れいむ!」 「せーの!」「せーの!」 「「ゆっくりしていってね!!」」 完璧な挨拶だ。 これで人間は心の底から存分にゆっくりしてこう言うだろう。 「ゆっくりが教えてくれた初めてのゆっくり。その感覚は心を穏やかにしてくれて、 こんな素晴らしいゆっくりを教えられた私は、きっと特別な人間なのだと感じました。 そんな私がゆっくりにあげるのはもちろん極上のあまあま。 なぜなら、彼もまた、特別なゆっくりだからです。」 あまあまは目前だった。 「ヤベーゆっくりじゃん!キモカワイイー!!」 「「へ?」」 視線が合うやいなやれいむに向けて突撃してくる人間。 「おねーさんのスーパーすりすりタイム開始じゃね?」 「なにいってんの?ゆっくりできたらはやくあまあまをゆぶげぇ!」 「れいむー!」 れいむの視界が人間の顔でいっぱいになった瞬間ザリザリと皮を抉るほどの強烈なすりすり。 ザーリとひとつ擦れば傷ができ。 ザーリとふたつ擦れば傷口開き。 ザーリとみっつ擦れば中身が漏れ出る。 「ゆだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」 「これモチ肌ってヤツ?マジテンション上がるんですけど!」 「いたがってるよ!ゆっくりやめてね!!」 まりさの声はザリザリ魔に届かない。 ザーリザーリ 「ゆぎや゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」 「もうやめないとじつりょくこうしでいくよ!!」 「んあ?」 まりさに気付いたのかザリザリ魔が振り向いた。 「まりざあ゛あ゛あ゛あ゛いだいよお゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」 「れいむ、だいじょうぶ?ゆっくりしてね!」 ザリザリから解放されたれいむの左頬は子ゆっくりくらいの穴が空き、 そこから餡子が絶え間無くこぼれ落ちている。 どうしてれいむがこんな目にあわなくちゃいけないのだ。 ゆっくりさせてやっているのに一向にあまあまをくれない人間。 もう我慢できない。 「にんげんさん!もうゆるさないよ!!まりさのたいあたりでゆっくりしんでね!!」 「ハァ?饅頭のくせにケンカ売るんですか?」 「まりさはほんきだよ!!」 「てかさ、たいあたりとか!マジウケルんですけど!!」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」 バカにできるのも今のうちだ。 れみりゃを追い払うほどのまりさの体当りを食らったら、 人間なんてきっと空まで飛んで行ってしまう。 そして空の上でゆっくり後悔するがいい。 「ゆーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」 「ゆっくりしねぇ!!」 「コーナーキックから・・・そのままゴールにシュート!!」 「ゆげばぁっ!!」 真っ向から体当りを仕掛けたまりさは、 ザリ魔のシュートによって天高く飛ばされる。 何故だ。何故 何故こんな人間ごときに自分の体当りが効かないのだ。 嘘だ、嘘だ。これは夢だ。 これは・・・きっと夢だ。 そして目が覚めれば・・・ 「ゆべしぃ!!」 まりさの着弾点を中心に餡子の花が開いた。 「ちょ中身もれてるし!弱すぎじゃね?」 「ゆ゛・・・ゆ゛・・・ゆ゛・・・ゆ゛・・・」 「てかもう飽きたから帰るわ、あーすっきり!」 ―――――――――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――― ――――――――――――――― ―――――――――― ――――― 「まりざ・・・まりざ・・・おぎで・・・」 「れ・・・れいぶ」 れいむに起こされたまりさ。 ずいぶんと餡子が出てしまいもう長くない。 「まりざ・・・もう・・・だめ・・・ゆっくり・・・できない」 「どうじでぞんなごどいうの?まだまりざどゆっぐりじだりないよ゛!」 口を開くたびに餡子が漏れるまりさ。 「ぜんぶ・・・にんげんざんのぜいだ・・・じぶんだぢばっがりゆっぐりじじゃって・・・。 まりさだちはぜんぜんゆっぐりでぎなぐで・・・」 「まりざ・・・」 「ぼう・・・げんがいだよ・・・」 「まりざ・・・ゆっぐりじぢゃだめだよ゛!ゆっぐりじぢゃだめだよ゛!」 「もっど・・・ゆっぐり・・・じだがっ・・・」 そう言い残すと、まりさは永遠にゆっくりしてしまった。 「まりざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」 れいむは考えた。 なぜこんなことになってしまったのだろう。 自分たちはゆっくりさせる為に来たのに、 自分たちはとってもいいことをしに来ているのに、 自分たちは何も悪いことをしてないのに 何で自分たちがゆっくりできなくなってしまうのだろう。 まるで、人間にゆっくりが吸い取られているかの・・・ 「!」 そうだ。人間は元々ゆっくりを知らないかわいそうな人間なのだから、 自分たちにあげるゆっくりがなかったのだ! なんてことだ! 一度にたくさん人間にゆっくりをあげてしまったから、自分たちのゆっくりが尽きてしまった! それで自分たちはゆっくりできなくなってしまったのだ! 「どぼじで・・・」 ようやく問題の答えが出たれいむの左頬にアリがたかってきた。 ピリピリとした傷みがゆっくりれいむを蝕んでいく。 「まりざ・・・」 ああ・・・目が霞んできた。 もうはっきり見えるのはもうすぐ死ぬという未来だけだ。 「れいぶもぞっぢにいぐからね゛!」 ―――――――――――――――――――――――――――――― 人間が「ゆっくり」を忘れてしまったためにゆっくりが誕生した。 なのでもはや「ゆっくり」はゆっくりにしか作れない。 そしてその「ゆっくり」をゆっくりを知らない人間に与えるのがゆっくりの役目となった。 彼らはゆっくりするために生まれて来たのではない。 ゆっくりさせるために生まれて来たのだ。 終 ******************************************************* 反省 前半と後半の差 今まで書いた作品 初めての制裁 僕のうさばらし ゆっくりは死んだ 見せあいっこ このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1244.html
「ゆっくり破壊爆弾」(前編) 「おにーさん!!まりさにゆっくりあわせてね!!」 扉の向こう。いるであろう男に、一匹のゆっくりれいむは呼びかけた。 反応が返ってこないことが、れいむを少しずつ不安にさせる。 「どうしてむしするのおおおぉぉぉ!?まりさにあわせてよおおおおぉぉぉぉ!!!」 全方向をコンクリートで固められた、無機質な部屋。 外部に通じるのは鉄の扉と、上方の窓のみ。どちらもれいむの身体能力では突破不可能である。 いや、無理をすれば窓からなら脱出できたかもしれない。 ……れいむ一匹であれば、窓の高さまでジャンプして脱出することは、決して困難ではないのだ。 れいむが脱出できない理由、それは―――頭上に生えた3本の茎、実っている12匹の赤ん坊である。 「ゆぅ…せめてあかちゃんたちはゆっくりさせてあげたいよぉ!!」 れいむ種6匹、まりさ種6匹。 いずれもプチトマト大に成長しており、あと半日もすれば生まれるだろう。 だから、一刻も早くこんなゆっくり出来ない場所から脱出したい。赤ちゃんをゆっくりさせてあげたいのだ。 「まりさああぁぁぁぁぁ!!!ゆっくりでてきてよおおおおおぉぉぉぉ!!!」 男への呼びかけは、いつの間にかパートナーであるまりさへの呼びかけに変わっていた。 妊娠しているゆっくりは、日常生活の多くをパートナーに依存することになる。 パートナー不在という今の状況は、れいむにとってとてつもなく不安なものだった。 「ゆぐううぅぅぅぅ………まりさといっしょにゆっくりしたいよぉ……」 どうしてこんなことになったのか。どうしてこんな不安を味わわなければならないのか。 自分達はただ、仲良くゆっくりしていただけなのに…… れいむとまりさは、森に暮らす普通のゆっくり夫婦だった。 3日前に実った子供が誕生するのをゆっくりと待っている、普通のゆっくり夫婦だった。 「ゆ~♪とてもゆっくりしたあかちゃんだね!!」 「ゆっくりうまれてきてね!!ゆっくりでいいからね!!」 一緒に歌って赤ちゃんに聞かせてあげたり、天気のいい日に日向ぼっこをしたり。 とても平和で、とてもゆっくりした日々だった。 これからもずっとゆっくりできる。子供が生まれたら、皆で一緒にゆっくりできる。 れいむとまりさは、そう信じて疑わなかった。 その平和が終わったのは、6時間前のことだった。 外部からの侵入者―――人間である。 男は、巣のすぐ外にいたれいむとまりさを、品定めするような視線で見下ろしていた。 妊娠時期のゆっくりは、特に外敵に対して敏感になる。 恐怖心でぶるぶる震えているれいむに背を向けて、まりさは男に飛び掛った。 「ゆぅぅぅぅ……ゆっくりできないよおぉぉぉぉ……」 「ゆっ!!れいむはまりさがまもるよ!!おにーさんはゆっくりむこうにいってね!!」 だが、まりさの体当たりはあっさり避けられ、逆に強烈な蹴りを受けて飛ばされてしまった。 そして、その飛ばされた方向が……とても悪かった。 ボチャン!! 池に落下した音である。 「ゆっぷ!?うっぶ!?だずげでえええぇぇぇ!!!おみずはゆっぐりでぎないよお゛お゛お゛おおお゛お゛!!」 先ほどの勇敢な姿は見る影もなく、情けない声を上げて助けを求めるまりさ。 それに引き寄せられるように、男は池の畔へゆっくりと歩いていく。 れいむは頭上の赤ん坊を気遣いながら、すりすり這って男を追った。 「ゆっ!おにーさん!!まりさをたすけてあげてね!!」 男はれいむの要求を完璧に無視し、時間を気にしているような様子で懐中時計を見た。 じたばた暴れて水を撒き散らすまりさと懐中時計の間で、視線を往復させている。 まるで、まりさが死ぬのをゆっくりと待っているかのように。 「おにぃさぁあぁぁぁぁん!!!はやぐまりざをだづげでよおおおおお!!!まりさがゆっぐりでぎなぐなるうぅぅぅ!!!」 「れっ、れいむぅ……だず…げでぇ……」 表皮がどろどろになり、これ以上放っておけば崩壊してしまうというところまで水に侵されたまりさ。 男は、懐中時計をポケットに突っ込み、やっとまりさを池から引き上げた。 そして、透明な箱にまりさをそっと突っ込んだ。 「動くなよ。動いたら死ぬからな」 まりさは箱の中でおとなしくしていた。暴れることも喋ることもせず、じっと堪えている。 口は爛れた皮で塞がっているので、言葉を発することは出来ない。 全身がデコボコに歪み、ところどころ皮が薄くなって中身が透けて見えている。 ちょっとでも動こうものなら、水分を吸った皮は簡単に破れてしまうだろう。 全身どろどろのまりさは、悲しげな目でれいむを見つめている。 れいむにも理解できた。これは放っておいて治るものではないのだ、と。 「おにーさん!!まりさをゆっくりなおしてあげてね!!」 「そうだな……お前の態度次第では、治してやらんこともない」 男の言っている事が、れいむには分からなかった。 でも、拒絶はされていない。ということは治してくれるに違いない。れいむはそう考えた。 「ゆ!?ゆっくりせつめいしてね!!」 「僕の命令に従うと約束するのなら、まりさは治してやる、ってことだ」 れいむは、まりさを見つめ返した。 物言わぬ口、無言で何かを伝えてくる目。まりさが何を言いたいのか、れいむにはわからなかった。 けれど、ここで何をするべきかは頭の悪いれいむでもわかった。 「ゆっ!!ゆっくりやくそくするよ!!だからまりさをなおしてあげてね!!」 れいむは、自分達がゆっくりできない原因を作った張本人に、まりさの治療を任せることにした。 そして男の言葉に従って別の透明な箱に自ら入り、運ばれてきたのが……今いるコンクリートの部屋である。 ドアを開ける音で、れいむは我に返った。 入ってきたのは、まりさを痛めつけておきながらまりさを治療すると約束した、例の男だった。 「やぁ、ゆっくりしているかな?」 「ゆっ……こ、こんなところじゃゆっくりできないよ!!さっさとまりさにあわせてね!!」 恐る恐るではあるが、男に対して強気の要求をするれいむ。 男はクスクス笑いを堪えながら、れいむの頭を撫でてやった。 「まりさの手術は半分終わったよ。あとは体力が回復するのを待って、もう一回手術するだけだ」 「ゆゆっ!そうなの?だったらもうすぐまりさとゆっくりできるね!!おにーさんありがとう!!」 まりさが治りつつと知るや否や、れいむは頭上の赤ん坊の存在も忘れて跳びはねた。 茎を伝わってくる重みを感じて、すぐに跳びはねるのを止める。 「ゆっ!!まりさにあわせてね!!れいむはまりさとゆっくりするうぱぁっ!?」 調子に乗って、そんなことを口にした時。 男が腕を振ったかと思うと、れいむの頬が赤く染まった。 びりびり響くような痛みを感じて、じんわりと目が潤んでいく。 「ゆっぐ!?なにをするの!?れいむにはあかちゃんがいるんだよ!?」 「目を瞑っていろ。そこを動くな。何も喋るな」 れいむの抗議に、男は3つの命令で返す。 圧倒的な威圧感を受けて、れいむは思わずたじろいだ。 「ゆゆゆ!!ゆっくりやめてね!!いたいことしないでね!!」 「おいおい、忘れたのか。まりさを治してやる代わりに、お前は僕と約束したじゃないか」 つい数時間前のことを、れいむは何とか思い出そうと努めた。 そして、思い出した。自分が目の前の男を交わした約束を。 ―――僕の命令に従うと約束するのなら、まりさは治してやる 「約束したよなぁ。僕の命令に従うってさ。まりさを治してるんだから、今更約束は無効っていうのは……ナシだぞ?」 「ゆっ!?でもゆっくりできないのはいやだよ!!ゆっくりできないやくそくなんて――― 「約束を破るのか。それなら、僕も約束を破ることにするよ」 そういうと、男はれいむに背を向けて出て行こうとする。 「れいむが約束を守らないなら、まりさは治してあげられないな。手術前のドロドロの状態に戻して、ゆっくりと死んでもらおう」 「ゆゆううぅぅぅぅ!?ゆっくりやめてね!!まりさにひどいことしないでね!!」 地面を這いずって追いすがるれいむ。 男はしゃがみ込むと、れいむの頭上に実っている赤ん坊の一匹を、ぎゅうっと握った。 赤ちゃんの苦しそうな声を聞いて、れいむの顔がさぁっと青ざめる。 「ゆっっゆうううぅぅ……」 「や、やめてあげてね!!あかちゃんがいたがってるよ!!」 「だったら約束は守れよ。約束っていうのは、守るためにあるんだから」 冷たく微笑む男を、れいむは心底怖いと思った。 何を考えているのかが分からない。どうして笑いながら、こんな酷い事が出来るのか。 わからない。わからないけど……れいむはガクガク震えながら、ゆっくりと頷いた。 「ゆっぐ……ゆっくりりかいしたよ!やくそくはまもるから、まりさをなおしてあげてね!!」 「最初からそう言えばいいんだよ、クズ」 男はもう一度「目を瞑っていろ。動くな。喋るな」と指示を出した後、ハチマキのようなものでれいむに目隠しを施した。 そして、怯えるれいむの体を優しく撫でながら、念を入れて命令する。 「いいか。何があっても動くなよ。僕がいいと言うまで絶対に動くな。そして何も喋るな」 「……!!」 れいむは恐る恐る頷いた。もし動けば、まりさの命はないからだ。 必死に口を結び、叫ぶ代わりに涙を流す。れいむの目を覆う布がじんわりと濡れた。 「そうだ、それでいい。僕の言うことを聞いていれば、まりさに会わせてやる」 男はれいむの頬を優しく撫でると、道具を取りに一旦部屋を出て行く。 戻ってきた男の手が持ってきたのは、“ゆっくり治療セット”だ。 12匹の赤ちゃんゆっくりの中から一匹選び、茎から離れぬよう注意しつつぎゅぎゅっと強く握り締める。 握られた赤ん坊は、言葉にならない悲鳴を上げた。 「ゆがっ!ゆああぁぁぁぁぁあ……」 「ゆゆっ!?あかちゃんがくるしんでびゅあっ!?」 その瞬間、男はれいむの頬を思い切り抓った。じんわりと切れ目が入る、れいむの頬。 激痛によって約束を思い出したれいむは、再び口を強く噤む。 「っ………!!!」 「何度も言わせるなよ。動くな。喋るな」 それ以降、どんなに赤ちゃんが苦しむ声を上げても、れいむは辛抱し続けた。 というよりは、“動くな。喋るな”という言葉を頭の中で反復させるのに夢中で、赤ちゃんの声が聞こえていないのだ。 握り締められている赤ちゃんは、ゆぅゆぅと力のない呼吸をしながら、閉じられた目から涙を流している。 男はゆっくり治療セットから取り出した針で、赤ちゃんの頬にうまく切込みを入れた。 そして、全ての赤ちゃん達に“あるもの”を埋め込み、皮を元通りにする。 1時間後、男は12匹の赤ちゃんゆっくり全員に“手術”を施し終えた。 涙でずぶぬれになった目隠しを取り去ると、れいむは潤んだ目で男を見上げる。 「よし、もう動いても喋ってもいいぞ。赤ちゃんが生まれる頃にまた来るからな」 「ゆゆぅ……ゆっくりつかれたよ…ゆっくりさせてね……」 緊張を強いられていたれいむは身体を脱力させ、その場にへたり込んだ。 頭上の赤ちゃん達の変化には、どうやら気づいていないらしい。 数時間後。 茎を伝わる振動を感じ、れいむは身構えた。 「ゆっ!!あかちゃんがゆっくりうまれるよ!!」 その声に呼ばれるように、男は部屋に入ってきて床に座り込む。 赤ちゃんたちの誕生を待ち望んでいるかのように、嬉しそうな目でれいむの頭上を見ている。 れいむは、男が自分の赤ん坊に見惚れているのだと思った。 「ゆゆっ!!おにーさん!!れいむのあかちゃんにむちゅうだね!!」 そんなことを言っているうちに、一匹目の赤ちゃんが体を震わし始める。 待ち望んだ赤ちゃんともうすぐ会える。れいむの顔は希望に満ちていた。 ぷちっ! 1匹目。赤ちゃんれいむがコンクリートの上に生れ落ちる。 れいむは口を閉じて、赤ん坊の第一声を待った。 「ゆっ…ゆゆ…ゆっくちしちぇいってね!!!」 「ゆううううううぅぅぅ!!!ゆっくりしていってねぇ!!!」 ちゃんと挨拶ができた。それだけでれいむは嬉しくて、涙が止まらなくなった。 そこに理屈はない。心の底から子供の誕生を喜んでいるのだ。 「ゆゆっ!!れいむがおかーさんだよ!!いっしょにゆっくりしようね!!」 続々と生まれてくる12匹の赤ちゃんゆっくり。 そのいずれもが健康で、第一声もとても元気なものだった。 12匹が無事に生れ落ちると、赤ちゃん達は母れいむに向かって一斉に大声を上げた。 「「「「ゆっくちしちぇいってねぇ!!!」」」」 「ゆうううぅぅぅぅ!!!ゆっくりしていってね!!!」 これほど生きてて良かったと思ったことはない。それぐらい、母れいむは子供たちの誕生が嬉しかった。 そして、これから沢山の子供たちとゆっくりできる、そんな未来が楽しみだった。 子供たちは母れいむの周りに集まり、生まれて始めての“すりすり”をする。 ゆっくりにとっての親愛の証。子を愛し、母を愛する、家族の絆の証である。 「おかーしゃんのしゅりしゅり、とってもきもちいいよ!!」 「ゆぅ~しあわしぇだよぉ~!!」 「もっちょしゅりしゅりしてぇ~!!!」 「ゆっくちすりすりしてにぇ!!」 「ゆゆぅ~!!みんなとてもゆっくりしているね!!!」 その様子を都合5分程度、男は時計を眺めつつ観察していた。 時計の長針が文字盤の12を指したところで、男はゴミ袋を取り出してれいむ一家に近づく。 これが最初で最後の“すりすり”になってしまうとは、一家の誰も予想していなかった。 「さて、そろそろ始めるぞ」 すりすりの最中の一家に割って入り、赤ちゃんゆっくりたちを次々とゴミ袋の中に放り込んでいく。 「ゆっ?ゆっくちゆひゃああぁぁあぁ!!?」 「ゆっくりやめちぇね!ゆっくちしちぇよおおおおっぉぉお!!!」 甲高い叫び声と共に袋へ吸い込まれていく赤ちゃん達。 母れいむの笑顔が、一気に崩れた。 「ゆっ!おにーさんなにするの!?あかちゃんたちをだしてあげてね!!」 「黙れ。動くな」 「びゅっ!?」 圧倒的な低音の声で、2つの命令を母れいむに突きつける男。 それだけで母れいむは、びくっと震えて口を噤んでしまう。 男の命令は聞かなければならない。そうしないと、まりさを助けてもらえないからだ。 母れいむが怯えているうちに、男は12匹の赤ちゃんゆっくりを回収し終えてしまう。 「っ……!!!」 れいむは叫ばず、動かず、嗚咽を我慢しながら涙を流している。 それを確認した男は、れいむから離れて作業を開始した。 「全員出してやるからな。でもお兄さんがいいって言うまで、動くんじゃないぞ。 言いつけを破ったら、今度は二度と袋から出してやらないからな」 男は袋の中から、先ほど捕まえた赤ちゃんゆっくりを一匹ずつ取り出し、等間隔で床の上に置き始めた。 壁に沿って、一辺が4匹ずつになるように正方形の形に、赤ちゃんゆっくりを並べていく。 「ゆっ!!ゆっくちりかいしたよ!!」 「れいみゅはうごきゃないよ!!」「だからゆっくちしゃせてね!!」 生まれたてのわりには物分りのいい赤ちゃん達。男の言いつけを忠実に守って、ゆっくりできる時を待ち続ける。 一方母れいむは、男のとった行動の意味が理解できずにいた。 「さて、皆には一つだけ話しておかなきゃいけないことがある」 赤ちゃんゆっくりを並べ終えた男は、部屋の中央にいる母れいむの傍に立ち、説明を始めた。 それと同時にポケットに手を突っ込み、中のリモコンのボタンを手探りで押す。 「単純明快に説明しよう。12匹の赤ちゃん達には爆弾が埋め込まれている。そして母親に近づくと爆発するようになっている」 「「「………ゆっ?」」」 赤ちゃんゆっくりは、揃って首を傾げる。 発言を許されていない母れいむも、内心同じ気持ちでいるだろう。 「実際にやってみた方がわかりやすいよな。それじゃぁ……お前、お母さんに近づいてすりすりしろ」 「ゆっ?うごいていいの?」 指名されたのは、部屋の出口に一番近い場所にいた赤ちゃんまりさだった。 母親とすりすりできる期待感に笑顔を浮かべるまりさ。 男に背中を押され、それが自由に動いていい合図なのだと判断した赤ちゃんまりさは、一目散に母れいむへと跳ねていった。 「ゆ~っ!!おかーしゃんとしゅりしゅりするよ!!!」 「ゆっ!!おちびちゃん!!ゆっくりすりすりしようね!!」 母れいむも出迎える体勢を整える。 だが、赤ちゃんまりさが母れいむの頬に飛びかかろうとしたその瞬間――― パンッ!!! 赤ちゃんまりさの姿は消え、饅頭の皮と餡子が母れいむの顔面に降りかかる。 数秒後、爆風で飛び上がった帽子が床の上に舞い落ちた。 母れいむは……目の前で起こった事が、理解できていない。笑顔のまま硬直している。 その傍らで、男は説明を再開した。 「ゆっ?………おちびちゃん、どこにいったの?……かくれてないででてきてね!」 「見ての通りだ。赤ちゃんが母親に近づくと、爆発する。 爆発するっていうのは、身体がバラバラになってしまうということだ。こんな風にね」 母れいむの顔面に張り付いていた皮をつまみ上げ、母れいむを含む一家全員に見せてやる。 爆発の瞬間。一瞬の激痛に歪んだ、最期の顔。死を表現しているその顔を見て、赤ちゃんゆっくりは“爆発する”ことの意味を知った。 そして母れいむも、赤ちゃんまりさが“どこ”に行ったのか理解した。 「ゆっ!?ゆううううぅぅぅぅ!?れいむのあがぢゃんがああぁぁぁぁぁぁぁ!!??」 「いぎゃああぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!ゆっぐぢでぎないいいいいぃぃぃぃ!!!」 「どぼぢでごんなごどじゅるのおおおおぉっぉぉ!?!?」 「れいみゅたちゆっぐじしだいよおおおおおおおぉぉぉぉお!!!」 赤ん坊にとって、“ゆっくりする”とは母親とのふれあいを示す。 しかし、ゆっくりしようとすれば爆発する。つまり、先の赤ちゃんまりさのようになるのだ。 「今ので理解できたよな。お前達は母親に近づかないでゆっくりすればいいんだ。……簡単なことだろう?」 「おにーざんのばがあああぁぁぁ!!ゆっぐじさせでよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 「おがーぢゃんどいっじょにゆっぐじぢだいいいぃぃ!!!」 「おう、自由にゆっくりしていいぞ。この狭い部屋の中で、思う存分ゆっくりしていってね!!!」 一家の叫びが止むのを待たず、男はコンクリートの壁に囲まれた部屋から出て行く。 12匹分の叫びが男に通じることはなく、母れいむたち一家は跳ね回る元気も失い、互いを見つめ合っていた。 数時間後。バケツ一杯分の餌を持って、男が部屋に戻ってきた。 それまで数センチも動くことなくゆっくりしていた一家は、男を見上げながら声を上げる。 「おにーさん!!おちびちゃんたちを“ばくはつ”しないようにしてね!!」 「しょうだよ!!まりぢゃはおかーしゃんとゆっくちしたいよ!!」 「れいみゅばくはちゅしたくないよ!!ゆっくりしゃせてね!!」 そんな懇願を華麗に受け流した男は、部屋の中心にいる母れいむの近くに餌をばら撒いた。 「これが今日のお前らの餌だ。好きなだけ食べていいぞ」 山盛りのクズ野菜。見た目は多いように見えるが、実際は母れいむ一匹が全部食べてやっと満腹になる程度。 合計12匹のれいむ一家を満足させられる量ではなかった。 それでも食べないよりはマシだと思ったのだろう、周囲の11匹の子供たちは餌に集まってくる。 「ゆ~!!ごはんごはん!!」「ゆっくちたべりゅよ!!」 「ゆ!そうだね!!おかーさんがやわらかくしてあげるから、それをたべてね!!」 母れいむは、自分が野菜を噛み砕いて軟らかくしてから、赤ちゃん達に食べさせるつもりらしい。 やっと母親らしい事ができる、と張り切って口の中に野菜を詰め込んでいく。 だが、目の前に美味しい食べ物が用意されたせいか、とても大事なことを一家は忘れていた。 それも、ついさっきまで覚えていたことである。 「むーしゃむーしゃ!おちびちゃん!ゆっくりたべさせてあげるね!!」 「ゆ~♪おかーしゃんだいちゅきー♪」 「れいみゅたちをたくさんゆっくちしゃせてね♪」 口の中で野菜を噛み砕き、赤ん坊でも食べられる軟らかさにしてやる母れいむ。 周りからは、11匹の赤ちゃんが我先にと母れいむの元へ集まってくる。 そして、最初の赤ちゃんが母れいむの正面に飛び込んでいった、その瞬間――― パンッ!!! 赤ちゃんれいむの姿が、母れいむの正面から消えた。 「ゆ?おねーちゃん?」「ゆっくち…?」 残ったのは、焦げた皮と餡子。ぱさっと赤いリボンが床に落ちる。 身動きを忘れた母れいむの口からは、どろりと唾液にまみれた野菜が漏れ出した。 我に返った母れいむは、硬直している残りの10匹の赤ちゃんに向かって叫んだ。 「にげてえええぇぇぇぇぇ!!!ゆっぐじしないでにげでえ゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇ!!!」 「いやああぁぁぁぁぁぁ!!!ばくはちゅしたくないいいいぃぃぃ!!!」 「ゆっぐぢでぎるとおもっだの゛に゛い゛い゛い゛い゛い゛ぃぃぃ!!!」」 それまで母れいむのもとに集まろうとしていた赤ん坊は、我先にと部屋の隅っこへ逃げていく。 同時に思い出した。自分達のおかれた状況を。自分の身体に埋め込まれた“爆弾”の存在を。 赤ちゃんゆっくりたちの笑顔は一転、死の恐怖に歪められた。 「おなかしゅいたよぉ…」「ゆっくちできないよぉ…」 遠く離れたところから、母れいむの傍らにあるクズ野菜の山を見つめる赤ちゃん達。 とても美味しそうなご飯。お母さんに食べさせてもらうのを、楽しみにしていたのに…… 「おにーさん!!あかちゃんたちがおなかをすかせてるよ!!ゆっくりごはんをたべさせてあげてね!!」 母れいむは、声を張り上げて男に懇願する。 お腹をすかせて泣いている子供たちが、かわいそうで仕方なかったのだ。 本当なら自分が口移しで食べさせてあげたい。けど、そんなことをしたらゆっくり出来なくなってしまう。 自分の気持ちが通じるよう、母れいむは祈りを込めるように男にお願いした。 「ダメだ。お前が方法を考えて、赤ちゃん達にご飯を食べさせろ。……これは“命令”だぞ」 「ゆ゛っ!そ、そんな……」 「お腹いっぱい食べてね」と赤ちゃん達に笑顔で言い残し、男はクククと笑いながら部屋を去っていった。 残されたのは、空腹の苦しみですすり泣いている赤ちゃん達と、山盛りのクズ野菜。 母れいむは、赤ちゃん達にご飯を食べさせる方法を、ない頭を使って必死に考える。 そして、1時間かけてやっと思いついた方法が、これだった。 「むーしゃむーしゃ!ぺぺっ!!」 噛み砕いた野菜を、母れいむは部屋中央の床の上に吐き出していく。 そして部屋の中央から離れると、10匹の赤ちゃんに呼びかけた。 「おちびちゃんたち!!そこにあるごはんをゆっくりたべてね!!」 こうすれば、赤ちゃん達が爆発してしまう心配はない。母れいむはホッとため息をついた。 しかし、赤ちゃん達の方は不満顔だ。 「むーしゃむーしゃ……それなりー」「ゆぅ…おかーしゃんにたべさせてもらいたいよ…」 通常、生後2週間までの赤ちゃんゆっくりは、母親から口移しによって食べ物を食べさせてもらう。 そういったスキンシップは、赤ちゃん達に大きな安心感を与えるのだが、今の赤ちゃん達にはそれがない。 本能的な不安を感じながらとる食事は、美味しくもなんともないだろう。 「ゆぅ~……ゆっくりがまんしてね!!」 母れいむの虚しい呼びかけが、部屋の中に響いた。 言われるまでもなく、赤ちゃん達は空腹を満たすために我慢して食べる。 そして母れいむが用意した食事の半分以上を残して、部屋の隅っこへ戻っていく。 「ゆぅっ……まりさぁ…いっしょにゆっくりしたいよぉ……」 姿を見せぬパートナーに思いを馳せながら、母れいむは赤ちゃん達と反対のほうへ這っていった。 「バカ野郎っ!!」 「ゆっぼがあっ!!??」 部屋に入るなり、男は母れいむを思い切り蹴飛ばした。 壁にぶつかり、跳ね返って男の足元に戻ってきた母れいむを、男は靴底で受け止める。 「僕の命令を忘れたか? 『赤ちゃん達にご飯を食べさせろ』と言ったのに……この野菜の山は何だ!?」 「ゆっ!?だ、だってあかちゃんたちが……!」 男が指差したのは、赤ちゃん達の食べ残し。 母れいむの唾液にまみれて異臭を放っている、ゴミクズの山だった。 「言い訳なんか聞いてない。このゴミクズを、今すぐ、子供たちに、食べさせろ……まりさを助けたかったらな」 「ゆひゅっ!!」 強く踏みつけられた母れいむは、忘れかけていたことを思い出した。 男の命令を聞かなければ、パートナーであるまりさに会えないどころか、その命すら助けてもらえないのだ。 「ゆっ!!おちびちゃんたち!!ごはんをのこさずたべてね!!」 母れいむはゴミクズの山を視線で示しながら精一杯呼びかけるが、子供たちはそれに応じようとしない。 口移しでない、愛情のないご飯など、唾液塗れの汚い野菜クズでしかないのだ。 「いやだよ!!おかーしゃんにむーちゃむーちゃしてほしいよ!!」 「そうだよ!!むーちゃむーちゃしてもらわないとおいちくないよ!!」 「わがままいわないでねええぇえぇぇえぇぇぇ!!!まりさのためなんだよおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」 理解を示さない子供たちに対し、母れいむは苛立ちを募らせていく。 口移しするために近づいたら、爆発してゆっくりできなくなるのに……そんなこともわからないのか! まりさのことで頭がいっぱいの母れいむは、子供たちに対して初めて憎しみを抱いた。 ……殺したいぐらいの、憎しみを。 「むーしゃむーしゃさせてね!!!」「むーしゃむーしゃしてくれないと、ゆっくちさせてあげないよ!!!」 「おなかしゅいたよおおおおおぉぉぉぉ!!!」「ゆっくちしたいよおおおおぉぉっぉ!!!」 「むーしゃむーしゃしてくれないおかーしゃんは、ゆっくちどっかいってね!!!」 その瞬間、母れいむはキレた。 (続く)? 作:避妊ありすの人 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/245.html
冬眠ゆっくりの子守唄 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 そのゆっくりれいむが通ると、誰もがあたたかな声をかける。 「ゆっくり、していってね」 答えるれいむは上品だった。物腰たおやかで、そして美しかった。 魔法の森の誰もがうらやむ、最上のゆっくり、それが彼女だった。 「ゆっくりー……」 柔らかな草の上に座り、ただゆっくりと日を浴びる、それだけでも花のように絵にな るゆっくりだった。 「ゆっくりちちぇっちぇね!」 「ゆっくりちちぇっちぇね!」 小石ほどのちっちゃな赤ちゃんまりさや赤ちゃんれいむたちが、蝶を追ってぴょんぴょ んと飛んでいく。それを見ると、ぴょんと横から蝶を捕まえ、赤ちゃんたちにやった。 「はい、ちょうちょさんよ」 「ありがちょ、おねーたん!」 「やさしいね、おねーたん!」 感謝するちびたちに、無言でにっこりと笑いかける。 ゆっくり特有の騒々しさもなく、控えめで、優しい。本当によく出来たゆっくりだっ た。 そのれいむは、一年を母親の下で過ごし、そろそろ一人立ちを迎えようとするころだっ た。こんなにも器量よしで気立てのよいゆっくりなので、もちろん大勢のゆっくりたち が彼女を慕っていた。 「れいむとゆっくりつきあってね!」 「まりさとゆっくりつきあってほしいんだぜ!」 「あっあっあアリスと赤ちゃんをつくりましょぉ~~~~~!」 そんな誘いにも、れいむは頬を赤らめて、つつましく辞退していた。 「もうちょっと、ゆっくりかんがえさせてね」 彼女が一体誰と付き合うのか、森のゆっくりたちはやきもきしていた。 れいむの母親は、保守的な考えの持ち主だった。 「れいむはまだまだこどもだよ! 次の春までゆっくりと成長して、それからすてきな 人を見つけるといいよ!」 れいむ本人も、漠然とそんなふうに考えていた。 まだまだ、恋というものを遠くの虹のように考えていたのだ。 だが、恋のほうではれいむを待ってくれなかった。 ある日のこと、草むらをゆくゆくとしとやかに歩いていたれいむは、隠れていた蛇に 襲われた。悲鳴を上げて逃げようとした時、石をくわえて蛇を叩きのめしてくれたゆっ くりがいた。 「このあたりは危ないんだぜ。ゆっくりしないで通り抜けてね!」 そのまりさは、れいむにしばらく目を留めていたが、他のゆっくりのようにれいむの 美貌に惑わされて口説き始めたりはせず、黒い帽子を翻してそっけなく去っていった。 「すてきなひと……!」 ゆっくりれいむの餡子ハートが、きゅんきゅん鳴り始めた瞬間だった。 ほどなくそのまりさの素性がわかった。魔法の森のはずれの石地に暮らす、一人身の ゆっくりだった。 数日後、れいむはとびきり色艶のいいアマガエルをくわえて彼女に近づき、震えるハ ートに勇気を奮い起こして話しかけた。 「あの、せんじつはありがとう……いっしょにゆっくりしてね?」 「ゆっ?」 振り向いたまりさは、しばらくれいむを見つめてから、やがてにっこりとほほえんで くれた。 「ああ、あのときの……」 覚えていてくれた。それだけのことで、れいむは天にも昇る心地になった。 「これ、おれいなの。ゆっくりたべてね……?」 まりさはカエルを見て、べろんと舌を伸ばして食べてくれたが、ふいと向こうをむい てしまった。 「ありがとう。でも、ゆっくり帰ってね」 「どうして? れいむ、もっと……まりさといたいよ」 「ゆぅぅ、それはだめだよ」 「どうして?」 「だってまりさは……ばつをうけている身だからね」 まりさの告白は、衝撃的なものだった。 彼女はむかし、母親や姉妹たちと大きな家族で暮らしていた。ある日のこと、その家 族がゆっくりれみりゃに襲われた。母まりさが立ち向かい、子供たちも必死に手助けし たが、空を飛ぶゆっくりには勝てなかった。母も姉妹も体のあちこちをつまみぐいされ、 身動き取れなくなった。 そのとき、一人だけ無傷だったこのまりさは、家族を捨てて逃げたのだった。 「おかあさんがさけんでいたよ。『まりさだけでも、逃げてゆっくりしてね……!』っ て」 だが森のゆっくりたちは、このまりさに冷たい目を注いだ。家族を見捨てたゆっくり としてつまはじきにし、森のはずれのこんな寒々しい土地に追い出したのだ。 そこまで聞いた時、やさしいゆっくりれいむの目から、熱いものがあふれ出した。 「どお゛じでぞんな゛目゛にあっでるのぉぉ……!」 同情が胸を締め付ける。その痛みはすぐに、甘い共感に変わった。 我知らずれいむは、まりさに頬をすりつけていた。 強く強く、いっぱいの気持ちを込めて、すりすりと……。 「れ、れいむ……」 「つらかったよね、さびしかったよね……!」 すり寄るれいむに対して、まりさはとうとう何も言わなかった。 だが、別れ際に一度だけ、自分からそっと頬を当ててくれた。 れいむには、それだけで十分だった。 その日から、二人のひそかな逢瀬が始まった。 森のゆっくりたちの目をかすめて、石の荒地で、木陰のうろで、滝つぼの陰で、ふた りは密会を重ねるようになった。 密会といっても、二人とも前の冬に生まれたばかりで、まだ若い。子作りを求める、 燃え立つような情欲とは縁遠い。れいむが浮き立った調子で日常のことをしゃべり、そ れにまりさが時折あいづちを打つというような、他愛のない時を過ごしただけだった。 孤独なまりさはれいむの話を聞くと、ほかのゆっくりが気づかなかったようなれいむ の苦労を汲んで、ぽつりと同情してくれた。 「ゆっくりは、顔じゃないんだぜ」 「れいむは顔よりも、心がすてきだと思うんだぜ」 またそんなまりさも、おのれの美貌におごらない、謙虚で正直なれいむに惹かれていっ た。 「おかあさんや妹たちに、いつまでもゆっくりしてほしいよ」 「まりさのことも、きっとみんなはわかってくれるよ!」 夏の間、ふたりはそうやって、穏やかに愛をはぐくんでいった。 秋に入ると、ゆっくりれいむは冬支度を始めた。 優しいながら芯のしっかりしたこのれいむは、生まれて一年もたたないうちから、一 人で越冬をすると決めていたのだ。 外敵の近づきにくいイバラのしげみの奥に穴を掘り、着々と食料を貯めて行くゆっく りれいむの姿に、最初は心配していた母れいむも、許可を出してくれた。 「しんぱいだけど、だいじょうぶそうだね! がんばってゆっくりしてね!」 「うん、れいむがんばるね!」 幼女期を過ぎて少女期に入ったばかりのれいむではあったが、必要な餌の量や穴の広 さを本能が教えてくれた。れいむは着々と準備を進めていった。 ひとつ、気がかりなのは、あの仲良くなったゆっくりまりさのことだった。れいむは まりさと一緒にいたかった。 だが、結婚の誘いを口にするには、れいむはまだまだ幼かった。 もしそんな誘いをしたならば、一冬をずっと同じ穴の中で過ごすことになる。まりさ と夜を過ごしたことは、いまだに一度もなかった。そこで何が起こるのか、少女の活発 な妄想力をもってしてもさすがに考えが及ばず、れいむは一人、顔を赤くして首を振る のだった。 ――まだはやい、まだはやいよ! もっとゆっくりなかよくなってから……! 冬ごもりの食料は莫大だから、簡単には移せない。つまり、思いつきで移住すること は出来ない。どちらにしろ、今年は一人で過ごすことが決定していた。 森の木が色づきだしてからというもの、まりさのほうも冬支度を始めているようだっ た。ときおり遊びにいったれいむは、石穴での彼女の冬支度が、それなりに順調に進ん でいるようだったので、ほっとした。 そのころのれいむは、まりさの視線を感じて小麦粉の頬を熱くすることが増えていた。 まりさも同じように考えてくれている――そんな確信があった。 季節が移りゆき、とうとう幻想郷に初雪が降ったある日。 いよいよ冬篭りの支度をすっかり整えたれいむは、銀世界に顔跡をつけていっさんに 走っていた。 「ゆっ、ゆゆっ、ゆっ、ゆゆっ!」 今日は三ヵ月を越える冬ごもりを始める日。巣穴の入り口を閉じる前の、最後の逢瀬 だ。 石地の巣穴にたどり着くと、期待したとおり、その入り口はまだ開いていた。 「まりさ、いる?」 「れいむ? ゆっくりしていってね!」 聞き慣れた誘いの声。れいむはこの上ない喜びを覚えて、巣穴に入っていった。 「いよいよだね……!」 「ゆっくりと生き延びようね……!」 感無量で見つめあう顔と顔。自然の厳しさはお互いに知っている。うまくゆっくりで きなければ、再び会うことは出来ないかもしれない。 そんな切羽詰まった思いが、若いれいむに思い切ったことを口走らせた。 「あの……あのね、まりさ!」 「ゆっ?」 「もしこの冬篭りに成功したら……わたしとけっこんしてね!!」 白玉楼から飛び降りる思いでの大胆な告白。もちもちした頬を真っ赤に染めて、れい むはぎゅっとうつむく。 期待と不安に餡子が高鳴る。まりさはなんて答えるだろう。孤独なひとだから、断ら れるかもしれない。実は他に好きな人がいるかもしれない。乙女ゆっくりの想像力が暴 走しかけていく。 「ゆ……ゆぐ……」 のどに詰まったような不思議な声。おそるおそる声を上げると、まりさは顔を背けて むこうを向いている。 まりさを困らせてしまった――その思いに、れいむは足場が消えてなくなったような 絶望を覚える。やっぱり、自分の思い込みだったんだ。まりさは、ただの友達としか思っ てくれていなかったんだ……! 「ご、ごめんね、まりさ! 変なこと言っちゃった。……ゆっくりしていってね!」 最後の挨拶を残し、出て行こうとするれいむ。 涙を見られる前に。 ところがその後ろ髪が引っ張られる。ころんと転がって振り向いたれいむが見たのは、 真っ赤に染まって、怒っているようなまりさの顔。 「わ……わるかったよ、れいむ!」 「ゆっ?」 「な、なんて言っていいか、わからなかったんだぜ! うれしすぎて!」 言うが早いか、まりさは寄ってきた。柔らかな肌とふさふさの金髪がれいむの頬に押 し付けられる。 「まりさもだいすきだぜ! きっと、きっとけっこんしようね!」 「ゆ……ゆぅぅぅぅ!!」 歓喜の声がのどから漏れる。餡子脳をまたたく間に餡内麻薬が満たしていく。押し寄 せる幸福感、高まるヘヴン状態。 「ま、まりさ、うれしいよ……!」 「れいむ、ほんとにだいすきだぜ……!」 むにむにと頬をこすりつけ、何度も言葉を掛け合う。 こんなに幸せな思い出があれば、長い冬ごもりもぜんぜん苦しくない。少しの後悔も なくここを離れて、巣穴に戻ることが出来る。れいむはそう思った。 が――。 「ゆ、ゆく……ゆふ……」 「ゆぅ……ゆむぅ……」 押し付けた肌のぬくもりが、あまりに心地よすぎた。 愛しい人との距離が、あまりに近すぎた。 いつの間にか二人は言葉を忘れ、短い声だけを漏らして、体をゆすりあっていた。 そう、それは……二人がまだまだ早いと考えていた、愛の営みのきざし。 実際、二人はそんなことをするつもりは毛頭なかった。 ただただ、その心地よく温かい行為を止めたくなくて、じわじわと続けていただけな のだ。 しかし、いくら自覚がなくても、幼い餡子体に目覚めつつある官能は、そのまま消え てくれはしなかった。むしろ二人が押し合うのに合わせて、急速に高まりつつあった。 「ゆっゆっ……ゆっゆっゆぐっゆぐっ」 「ゆは、ゆは、ゆふ、ゆふ、ゆふぅぅ……ま、まりさぁ……へんだよぉ……」 頬を染め、とろんと溶けた目でつぶやくれいむ。 ふと相手を見れば、同じように快感に目を細め、唇をゆがめている。 そのまりさが、はっとれいむの視線に気づき、何か言おうとした。 「れ、れいむ……ゆっくりとやめようね……?」 彼女はまだ理性を残していた。今このタイミングで営みを始めたら、どんな悲劇的な 結末が待っているか、きちんと想像が出来た。 結末――それは恐ろしい光景だ。一人で巣穴に帰ったれいむが、腹の痛みを感じる。 そして何日かのあとに子供を産み落としてしまう。 一人用として準備された、巣穴の中で。 見詰め合ったまま、二人はわずかに逡巡した。 だがれいむは、しとやかで相手の望みを慮る性格のために、感じてしまった。 まりさがこらえている飢えを。芽吹きはじめた欲情を。 ――まりさがれいむをほしがってる……すっきりしたがってる……! それゆえに、れいむは揺すり続けた。 美しい頬をすりよせ、唇の端をまりさの唇に沿わせ……。 「まりさ、いいよ、まりさ……」 「ゆっ、れいむ、れいむ?」 「れいむはいいの。してほしいの。ねえ、すっきりしていってね……?」 魔法の森で一番とたたえられた、青いほど若く美しいゆくっりれいむの、健気な誘惑 ……。 それに、長い間孤独にさいなまれ、れいむを慕い続けていたまりさが、抗えるわけが なかった。 「れっ、れいむ、いいの、ほんとにいいの?」 「いいの、いいのぉ、まりさなら、ゆぅん、いいのぉっ……!」 まだ幼い、餡子皮もろくに厚くなっていない、青い果実のようなれいむがあえぐ。 「れいむっ、すきだよっ、れいむ、ほんとぉぉぉ!」 人の情けを知らずにたった一人で生き抜いてきた、飢えたまりさがむさぼる。 舌を伸ばしてべろべろと舐めあい、湿った頬をぐにぐにとすりつけ、野獣のように汁 まみれで愛し合う。若く未熟だといっても、いや、若く未熟だからこそ、二人の愛はと どまるところを知らなかった。 「ゆっ、ゆおっ、ゆふっ、ゆむぅっ♪ まりさっ、きもぢいい、ぎもぢいいよぉぉ!」 「れ゛いむ゛ッ、れい゛む゛っ、れ゛いむ゛ぅぅ、だいすきだよぉぉぉほぉぉ!」 「もっどっ、もっどじでっ、ぐるっ、ぐるっ、なにがぎぢゃぅぅぅぅ!!」 「まりざも、まりざもっ、れるっ、れるっ、なにかがれる゛ぅぅぅ!!」 ずくんずくんと押しつけるまりさの動きが最高に高まった瞬間、れいむは感じた。 じわじわぁぁっ……! と自分の中に染みとおってくる、まりさの愛のこもった熱い 波を……。 その途端、真っ白な閃光が丸い餡子体のすみずみまでも走りぬけ、れいむは我知らず に絶叫していた。 「すっきりーーー!」 「すっきりーーー!」 同時にまりさも叫び、柔らかい体をべったりとれいむに密着させたまま、ふるふると 硬直した。 白一色の野原の中、小さな穴倉で人知れず重なり合った二人の上に、新たな冬の使者 が音もなくはらはらと降り積もり始めた……。 ゆっくりれいむは枯れ草を敷き詰めた穴倉に、じっと座り込んでいた。 冬篭りを始めて一週間。――食料の消費は予想通りで、念入りにふさいだ入り口から は雪の一片も漏れてこず、冬篭りはすべて問題なく進んでいるようだった。 しかしれいむの顔は、心なしか青かった。 ――だいじょうぶ、だいじょうぶ! ゆっくりしてればいいの! 自分に言い聞かせつつも、思い返してしまうのは、あの日のことだ。 生まれて初めての衝動に押し流されるまま、自分の体のすべてを与え、恥ずかしい痴 態をさらしてまりさとひとつに溶け合った。それ自体は例えようもなくすばらしい愛の 出来事だった。 だが、終わったあとに残ったのは、取り返しのつかない愚行をしてしまったのではな いかという、巨大な不安――。 「れ、れいむ……」 おろおろとうろたえながら、まりさが何かを言おうとした。 「……こっちでゆっくりしていく? まりさはかまわないよ」 だが、出てきたのはこんな益体もない台詞だけ。もとよりまりさの巣穴にはまりさの 分の食料しかない。たとえまりさが身を投げ打ってくれたところで、来るべき事態の解 決にはならない。 れいむにまりさを責める気はなかった。あの流れの中で、自分は確かに、人生の分岐 点をこちらへと渡ったのだ。 一時の快楽に押し流されて……。 「ありがとう、まりさ。れいむはおうちにかえるね」 にっこりと笑って、れいむはそう言った。 まりさが好きだった。だから心配をかけたくなかった。 ただ、どうしたわけか、涙だけは目じりからぽろぽろとこぼれた。 「ゆっくりしていってね、まりさ。れいむはだいすきだったよ!」 「れ、れいむぅぅぅ……」 同じように涙を流し、何度も抱擁して、まりさは送り出してくれたのだった。 「春になったらむかえにいくからね! ぜったいいくからね!」 ……そんな声を背に、れいむは巣穴に帰ってきたのだ。 「ゆっ、ゆゆっ、ゆんっ!」 ふるふると頭を振って、自分に活を入れる。 「ゆっくりできるよ、ゆっくりしてるよ!」 すべては杞憂なのだ。こうして座って、辛抱強く食料を食いつないでいけば、やがて は春が来るのだ。 そうして、ある暖かな一日に薄暗い穴の中で目を覚ますと、入り口を掘りあけてまり さが来てくれるはずなのだ。 「ゆっくりしすぎたぜ、れいむ!」 そうやって、微笑んで……。 ぐりゅ、と頭皮の上で何かが動いた。 「……!」 れいむは頭をふる。何度も何度も振る。 「ゆっくり、ゆっくりしていくよ……!」 聞くものとてない冬山のイバラの茂みの奥に、そんな小さな叫びが響く。 だが――。 運命の神は――。 二人の愛の結晶を、無慈悲にも――。 「ゆぐっ、ゆぐっ、ゆゆぎぃぃぃ……!」 吹雪の吹きすさぶ厳冬の一月。 分厚い雪に振り込められた巣穴の奥に、異様な光景があった。 それは膨れ上がったゆっくりれいむ。――ただ縦方向に伸びているだけでないのは、 その口の下にみちみちと開きつつある穴から、明白だ。 産道が穿たれつつある。 一歳に達しないゆっくりれいむが、枝をつけずに胎児を孕むのは、きわめて異例なこ とだ。だがこれは、彼女自身が引き起こしたことだった。 その原因は、れいむが己の妊娠を徹底的に否定し続けてきたことにあった。 まりさとのあの日から一週間を過ぎたあたりから、れいむの体調は確実に変化してい た。食欲が異様に増え、食べても食べても物足りない。頭がうずき、何かが生えつつあ るような感覚が湧いた。 頭から枝が生えたら、子供が実る。――その程度のことは、うぶなれいむでも知って いた。 「は、はえないでね! ゆっくりはえないでね!」 頭の上に少しでも何かが突き出そうになると、壁にこすり付けて削り落とした。 だがゆっくりの体の作りは、ゆっくりであるれいむ本人にも想像もつかない神秘を秘 めていた。 枝が生えなくなってほっとしていると、今度は十日過ぎから、腹の中に違和感を感じ るようになった。 みちみちみち……。 みちみちみち……。 腹が圧迫されていく。 内側から。 まるで新しい何かが形成されているかのように。 「ゆ、冬太りになってきちゃったよ!」 「ゆっくりしてるの、ゆっくり一人ですごすのぉぉ!!」 食料の食べすぎだ、運動不足だと自らをあざむいても、詮無いことだった。 茎を作って生まれ出ることのできなかった生命が、行き場をなくして腹の中に宿って しまったのだ。 以来、それは育ちに育ち、一ヵ月半が過ぎた今では、かつてのれいむ自身に匹敵する ような何者かが腹の中にいることは、明白になってしまった。 それが今――。 いよいよ胎児としての成熟を迎え、外の世界に生れ落ちようとしている。 ふくれあがり、中からミチミチと押し開かれる産道に、れいむは懸命に力を込める。 「だめっ、だめぇぇぇ……生まれちゃ、生ま゛れ゛ぢゃだめぇぇぇ……! 出だら゛死ん゛じゃう゛の゛お゛ぉぉぉぉ!!!」 かつて誰よりも美しかったまぁるいあごの線は、無様にふくれ、見る者見る者に舐め てみたいと思わせた滑らかな餅肌には、脂汗が玉のようにびっしり浮いている。 若く美しいゆっくりだったれいむが、今は腹の膨れた妊婦となって、おのれの恥ずか しい穴を必死に引き締めているのだから、グロテスクを通り越して滑稽ですらあった。 「ゆぎい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!」 顔の下部に熱した金属棒を突っ込まれ、グリグリとこじ開けられるような壮絶な痛み が、れいむを苛む。れいむは歯を食いしばってそれに耐える。 最初のうちは外に出すまい、奥に戻してやろうという力みだったが、自然の巨大な力 の前に、そんな愚かな努力はたやすく圧潰した。今ではもう、腹の出口に宿る凶悪な痛 みの塊を、ただなんとか処理したいということしか、考えられない。 「ぎぎぎっぎゅぃいいぃいい! いだっいだっだっ、いだいよぉぉぉぉ!」 体内の餡子という餡子がマントルのように煮え返り、循環するような猛烈な苦痛が襲っ ている。その最悪の瞬間、れいむは痛みから逃れることしか考えていなかった。この痛 みをもたらしたすべての者を憎悪した。生まれつつある胎児自身、それを種つけたゆっ くりまりさ、種を受け入れた昔の自分、そしてそんな自分を世に送り出した母親までも を憎みぬいた。 「ゆっぐりじだいぃぃぃ! みんなみんなゆっくりじねぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!」 誰一人助けてくれるものもない、孤独な苦痛が最高に高まった瞬間―― きゅぅぅぅ……ぽんっ! 軽快な音とともに、一瞬で腹が軽くなった。たちまち、どっと音を立てそうな勢いで 安堵があふれ出し、れいむは至高の快楽に浸る。 「ゆっくりー!」 「ゅっ」 だが、彼女の安堵は、小さな小さなうめきを聞いた瞬間、絶望に転じた。 目を開ければ、薄暗い巣穴の床に、小さな丸いものが落ちている。 黒い帽子、濡れて波打つ金髪、ちょっぴり世をすねたような唇、まだ開いていないま ぶた……。 それは、愛したゆっくりまりさに生き写しの、自分の子供だった。 ――生まれてしまった……! ひたひたと押し寄せるその事実に、れいむは押しつぶされる。聡明な彼女には、この ことの帰結がはっきりと理解できた。 巣穴には一人分の食料しかない。 子供と二人では、間違いなく足りなくなる。 だから当然、今しなければいけないのは――間引き。 「……ゆ、ぐ、ぅ……」 それは子供を自らの手で殺すこと。大丈夫、生まれて間もない赤子はまだ世界のもの ではない。あちら側、死者の側の住人なのだ。殺すといっても、そちらへ送り返すだけ。 そう、これは「お帰し」なのだ――。 ゆっちゅりーだったか、あるいは他の誰かだったか。昔聞いたそんな理屈が、頭の中 でぐるぐると回った。 れいむはぶるぶるとおこりにかかったように震えながら、前へ進む。あれほどわが身 を痛めつけてくれたのに、子供の大きさは桃の実ほどもない。スイカ並みの大きさがあ る今の自分なら、のしかかるだけで片をつけることが出来る。 やるのだ。 やらねば。 やらなければ! ――と、そのとき目を開いた小さな子供が、きょろきょろと辺りを見回したかと思う と、輝く瞳にいっぱいの希望を浮かべて言った。 「ゆっくちちぇっちぇね!!!」 一撃だった。 それはれいむの脆い殺意を突き崩し、深い深い愛を呼び覚ますに十分な一撃だった。 幼い母親であるれいむの心に――幼いからこそ、純粋な愛がこんこんと湧き出した。 愛したまりさとの子供、自分の腹を痛めた子供だという思いが、あっという間に心を満 たした。 「ゆ゛っ……」 れいむは、その言葉を口にした。 「ゆっぐり、ぢでいっで、ねぇ……!!!」 そして滝のように涙を流し、わんわんと声を上げながら、赤ちゃんまりさに頬ずりし た。 「ゆっ? おかあたん、どうちたの? まりさがちゅいてるよ! 何もわからない幼いまりさが、早くもそんなことを言って、母に頬を擦り付けた。 母子はずっと一緒にゆっくり暮らした。 狭く暗い穴倉の中で、せいいっぱいゆっくりと……。 出産が済んだれいむは、いくらもたたないうちに、元のように丸く美しい体形を取り 戻した。子供と二人、彼女は毎日を楽しく暮らした。 子まりさも、満足しきっているようだった。 「おかーたん、ゆっくちおととにでたいよ!」 「おそとは寒いのよ。暖かくなったらね」 「おととにはどんなものがあるの?」 「きれいなお花や、可愛いちょうちょや、すてきなまりさかあさんがいるのよ」 「ゆっ、おかーたんがもうひとりいるの? まりさ、たのしみだよ!」 子まりさの幼すぎる餡子脳は、結末をまったく想像できなかった。 彼女はただ、外敵のいない快適な穴倉で、寝てもさめてもそばにいてくれる、若く美 しい母親と、壁一杯に積まれたたっぷりのごちそうに囲まれ、明るく広い未来を想像し て、至福のときを過ごしていた。 「ゆぅ・ゆ・ゆー ゆぅ・ゆ・ゆー ゆーゆゆぅゆ ゆーゆぅ……」 柔らかなアルトの子守唄を聴きながら寝かしつけられると、子まりさはついついこん なことを言ってしまうのだった。 「おかーたん」 「なぁに? まりさ」 「まりさ、とってもちあわちぇ!」 ちゅっ、と頬にキスして目を閉じる娘を、れいむはこの上なく幸せな顔で、だが滂沱 の涙を流しつつ、見守るのだった。 時が流れ、日々が過ぎていった。吹雪の音は収まることがなかったが、壁に積まれた 食料は少しずつ減っていった。 れいむにはひとつだけ迷いがあった。それは自分を犠牲にしてこの子を助けようかど うかということ。自ら招いた過ちである以上、そうすることもれいむは真剣に考えた。 だが、出た結論は、そうしたくないし、そうするべきではないと言うものだった。 母の肉体を食い荒らして育った娘が、幸せになれるだろうか……。 恋人の肉体を食い荒らして巣穴から出てきた娘を、母まりさが許してくれるだろうか ……。 そう考えれば、答えはとても簡単であるような気がした。 三月、冬の終わりを告げる最後の地吹雪が巣穴をとどろかしているころ。 食べるものが何一つなくなった、空虚な巣穴の中で、頬がこけ、げっそりと衰弱した れいむ親子が、夢うつつの境をさまよっていた。 「ゆぅ……ゆぅ……」 「ゅぅ……ゅぅ……」 寄り添った二人は、もはや苦鳴すら漏らしていなかった。おなかがちゅいた、と子ま りさが文句を言っていたのも、すでに一週間も前のことだった。 今では細い息を漏らしながら、迫り来る死を待っているだけだった。 「ゆぅ……ゆぅ……ゆっ・ぐ」 薄れる意識を漠然とたもっていたれいむは、ある一瞬、確かに自分の生が途切れたの を感じた。人間にたとえれば、弱りきった心臓が短い間、停止したというところだろう か。ともかく、死はすぐそこまで迫っているとわかった。 ――れいむ、しぬんだ……。 ――がんばったけど、ここで死んじゃうんだ……。 ――おかあさん、ごめん。まりさ、ごめん。子まりさ、ほんとにごめん……。 いつ死んでもおかしくない、と思った瞬間、れいむは細い決意を抱いた。あれほど考 え抜いて決めたことなのに、土壇場で再び母性本能がうずきだしていた。 「まりさ……まりさ」 「ゅぅ……ゅ?」 「今から、ごはんをあげるからね……いっぱいたべて、ゆっくりしてね……」 そう言って、子まりさから離れ、壁際の石へよろよろと這いずっていった。石の角で 自らを切り裂き、餡子を与えるつもりだった。 だが、その作業を始めて痛みに顔をしかめていると、ちっちゃな子まりさがゆむゆむ と必死にはいずってきて、細い声で取りすがった。 「おかーた、おかーたん、いたいいたいしちゃ、だめ!」 「いいのよ、まりさ……」 「だめなの、まりさはおかーたんがちゅきなの! おかーたんいっしょにいて!」 餡子の味を知らないから、そんなことを言うのだろう。いったん餡子を食わせてやれ ば、我を忘れてむさぼるだろう。 そうとわかってはいても、れいむは愛しいわが子を、泣かせたくなかった。 れいむは石から離れた。そしてまりさにゆっくりと寄り添って、歌い始めた。 「ゆぅ・ゆ・ゆー ゆぅ・ゆ・ゆー ゆーゆゆぅゆ ゆーゆぅ……」 眠れ眠れ母の胸に。 歌の歌詞そのまま、眠るように子まりさは静かになった。 ほどなくその静かな歌も途切れ、あとには吹雪のとどろきが残った。 汗ばむほどの陽気に包まれ、根雪が盛大に溶け流れている。 四月。魔法の森には急激な春が訪れ、すべての生き物たちがいっせいに目覚めていた。 「ゆっ、ゆゆっ、ゆっくゆっく!」 雪解けの地面を、全身泥まみれになりながら駆けていくゆっくりがいる。 黒い帽子のゆっくりまりさだ。もう五日も前から巣穴を防ぐ石版をぐいぐいと押し続 け、今日やっと、上に乗っている雪が溶けたために出てこられたのだった。 「ゆっくり、ゆっくりーっ!」 それは訪れた春を歌い上げる歓喜の声であるとともに、愛する人に聞かせる呼びかけ の声だ。皮よ破れよ帽子よ落ちよとばかりに、出せる限りの速度でまりさは跳ね飛んで いく。 イバラの茂みは、秋に記憶したとおりの場所にあった。そこは雪がまだ溶けていなかっ たが、そんなことは問題ではなかった。まりさの頭の中は、四ヶ月前に激しく愛し合っ た、美しく愛らしいゆっくりれいむのことだけが占めていた。 ――れいむ、れいむ! いま掘り出してあげるぜ! 冷たい雪を口にくわえて横手へ吐き出しながら、まりさは冬ごもりの間に数え切れな いほど繰り返した至福の想像を、再び頭の中で組み立てる。 雪をどけて扉を崩せば、待っていたれいむが涙ながらに飛び出してくるはずだ。 いや、慎み深いれいむのことだから、久しぶりの出会いにためらって、もじもじして いるかもしれない。 まさか眠っているってことはないはずだ! どれにしろ、まりさの言うべきことはひとつだけのはずだった。 ゆっくりしていってね! これからずぅっとずうっと、死ぬまで一緒にゆっくりしようね……! ゴソッ、と雪が抜けた。巣穴を閉ざす石と枝が現れた。 「れいむ! まりさだよ、ゆっくりしないで来てあげたよ!」 石と枝をくわえることすらもどかしく、もぞもぞと顔を突っ込んでまりさは入り口を 掘り抜いた。ずぼっと穴が貫通し、湿った巣穴の匂い、懐かしいれいむの甘い香りが、 ふわりと漂いだしてきた。 「れいむ!」 まりさは三日、遅かった。 ========================================================================= YT このSSに感想を付ける